作品紹介→*新作レビュー*紺野キタ「つづきはまた明日」
2巻レビュー→行き交う想いに優しく包まれて…:紺野キタ「つづきはまた明日」2巻
関連作品レビュー→「SALVA ME」/「日曜日に生まれた子供」/「夜の童話」
紺野キタ「つづきはまた明日」(3)
神様が私たちに与えてくれたもの
“思い出”
■3巻発売しました。
父子家庭に育つ杳と清は、父と叔母に見守られて少しずつ成長してゆく。杳は、夏祭りで友達と謎の仮面男を追いかけて、鮮やかな夏の思い出を作り…?ゆるやかに過ぎる日々を、丁寧な筆致で綴った日常ほのぼのストーリー、決定版!
~3巻ですが相変わらず癒される~
1年に1冊のペースですが、やっぱり発売が楽しみな一冊。これころ万人にお薦めしたい良作だと思うんですよね。というわけで、「つづきはまた明日」3巻です。相も変わらず、杳と清の二人をベースに、父と叔母、そして仲良し一家にお友達と、非常に優しく暖かい関係が繋がっています。何か特別なことをしているわけではないのに、それがとても鮮やかに、温度を持って包みこむんです。こんなにも鮮やかな日常を、きっと自分も送っていたはずなのですが、なぜだろうあんまり思い出せないのは。なんだか最近日々が流れるように過ぎて行きますが、なるべく噛み締めるように日々を過ごしたいなぁ、なんて思ったりしています。
~母を思う子の気持ち~
さて、今回もリカコの自由っぷりを中心に物語は賑やかに、楽しげな雰囲気のまま物語は進んでいくのですが、その中にもしっとりと落とし込まれる感傷的なシーンがまた涙腺を刺激して困りました。
この物語でひとつ影を落としているのは、杳と清の母が1年前に亡くなっているということ。2巻3巻と経て、その設定が敢えて語られることは少なくなってきていますが、意外と最近親を亡くしたばかりなのです。今回母親の話題が出て来たのは、七夕でのこと。とてもとても仲良しだったけれど、神様によってその仲を引き離されてしまった織姫と彦星の話を聞いて、清はこんなことを言うのでした…

お母さんとお父さんも
とってもとっても仲良しだったから
神様がいじわるしちゃったのかなぁ
自分のお父さんとお母さんを、織姫と彦星になぞらえる。そしてきっと会えるようにと、お天気になることを願うのでした。そして迎えた七夕当日。そこにいたのは…

原田さん
1巻冒頭にて彼女と出会ったとき清は彼女を、「お母さんの生まれ変わり」と信じ込む程、母とその姿を重ねていました。その容姿は非常に似ていて、以降も時折彼女に母親の面影を感じるシーンが度々描かれてきました。この瞬間、彼女に何かしらの感動を与えたのは、その表情を見ても明らか。七夕の日に、お母さんが現れたのです。けれどもそんな幻想は一瞬だけ。すぐに現実に引き戻され、しかも空模様はあいにくの雨。その時の清の哀しげで寂しげな表情が、本当に切なくて。幼いとはいえ、しっかりと物心ついた頃に亡くした母。その存在はしっかりと彼女の中に残っていますし、まだまだ甘え足りない。母親に似た面影を持つ原田さんは、清にとっては亡き母を思い出すかけがえのない存在でもあり、同時に母親にはもう会えないということを改めて思い知らされる辛い存在でもあるのかもしれません。兄の杳は書道教室がひとつの鬼門となっていましたが、意外と清にとっては原田さんがそれにあたるのかも。
さて、その後は団欒のコーナー。このお話、今回に限らず家族揃っての食事の様子が描かれます。リカコに対してのちゃぶ台返しが多いのも、それ故。食卓というのはまさに家族を表す鏡になっているんですよね。人と人の繋がりを、家族の絆を描くこの物語にとって、食事のシーンは絶対に欠かす事のできない場面なのです。そして七夕のメニューはそうめん。普段から割と凝った料理を作る杳ですが、今回もそうめんと言えどこだわります。それがニンジンを星形にくりぬくというもの。清と一緒にくりぬいた星を、そうめんの上に散りばめて、ほらそこに天の川が。そのそうめんは、みんなで一緒にいただきます。もちろん、亡き母の写真にもお供えして…

さて、何気なく描かれているこのシーン。さらっと「お供えするよね、うん」って感じで読み進めても良いのですが、ここでも再び1巻の冒頭に戻ってみましょう。そこで出てくるのはこんなシーン…

そうめんはお母さんの好物
そう、そうめんはお母さんとの思い出を手繰り寄せる、思い出のメニューだったのです。単純に夏場の定番メニューってわけではなく、1年に一度会えるこの日に敢えてのそうめん。お盆とかでも良いのですが、七夕で星を絡めながらってのが素敵じゃないですか。さらっと描かれているシーンも、ちゃんとつながっていて、理由がある。その深さに感動。
そしてもう一度、そうめんと母親のくだりが登場するんですよね。それが物語のラスト付近。そこで再び清は落ち込むのですが、その時の台詞がまた泣かせるのですよ…!加えてそんな彼女にやさしい言葉をかけて、ちゃんとフォローするお父さんさすが。このお話を読んでいてつくづく感心するのは、お父さんもリカコさんもその他の登場人物の大人たちも、みんなこどもとの距離の取り方、接し方が上手。多分自分はこんなに上手く気の利いた事言えなそうです。あーでも、もしかしたらそういう言葉は、大人が発しているのではなく、子供が引き出しているのかも。そんな言葉を引き出してくれるような魅力がまた、子供たちにはあるんですよね。
■購入する→Amazon
2巻レビュー→行き交う想いに優しく包まれて…:紺野キタ「つづきはまた明日」2巻
関連作品レビュー→「SALVA ME」/「日曜日に生まれた子供」/「夜の童話」

神様が私たちに与えてくれたもの
“思い出”
■3巻発売しました。
父子家庭に育つ杳と清は、父と叔母に見守られて少しずつ成長してゆく。杳は、夏祭りで友達と謎の仮面男を追いかけて、鮮やかな夏の思い出を作り…?ゆるやかに過ぎる日々を、丁寧な筆致で綴った日常ほのぼのストーリー、決定版!
~3巻ですが相変わらず癒される~
1年に1冊のペースですが、やっぱり発売が楽しみな一冊。これころ万人にお薦めしたい良作だと思うんですよね。というわけで、「つづきはまた明日」3巻です。相も変わらず、杳と清の二人をベースに、父と叔母、そして仲良し一家にお友達と、非常に優しく暖かい関係が繋がっています。何か特別なことをしているわけではないのに、それがとても鮮やかに、温度を持って包みこむんです。こんなにも鮮やかな日常を、きっと自分も送っていたはずなのですが、なぜだろうあんまり思い出せないのは。なんだか最近日々が流れるように過ぎて行きますが、なるべく噛み締めるように日々を過ごしたいなぁ、なんて思ったりしています。
~母を思う子の気持ち~
さて、今回もリカコの自由っぷりを中心に物語は賑やかに、楽しげな雰囲気のまま物語は進んでいくのですが、その中にもしっとりと落とし込まれる感傷的なシーンがまた涙腺を刺激して困りました。
この物語でひとつ影を落としているのは、杳と清の母が1年前に亡くなっているということ。2巻3巻と経て、その設定が敢えて語られることは少なくなってきていますが、意外と最近親を亡くしたばかりなのです。今回母親の話題が出て来たのは、七夕でのこと。とてもとても仲良しだったけれど、神様によってその仲を引き離されてしまった織姫と彦星の話を聞いて、清はこんなことを言うのでした…

お母さんとお父さんも
とってもとっても仲良しだったから
神様がいじわるしちゃったのかなぁ
自分のお父さんとお母さんを、織姫と彦星になぞらえる。そしてきっと会えるようにと、お天気になることを願うのでした。そして迎えた七夕当日。そこにいたのは…

原田さん
1巻冒頭にて彼女と出会ったとき清は彼女を、「お母さんの生まれ変わり」と信じ込む程、母とその姿を重ねていました。その容姿は非常に似ていて、以降も時折彼女に母親の面影を感じるシーンが度々描かれてきました。この瞬間、彼女に何かしらの感動を与えたのは、その表情を見ても明らか。七夕の日に、お母さんが現れたのです。けれどもそんな幻想は一瞬だけ。すぐに現実に引き戻され、しかも空模様はあいにくの雨。その時の清の哀しげで寂しげな表情が、本当に切なくて。幼いとはいえ、しっかりと物心ついた頃に亡くした母。その存在はしっかりと彼女の中に残っていますし、まだまだ甘え足りない。母親に似た面影を持つ原田さんは、清にとっては亡き母を思い出すかけがえのない存在でもあり、同時に母親にはもう会えないということを改めて思い知らされる辛い存在でもあるのかもしれません。兄の杳は書道教室がひとつの鬼門となっていましたが、意外と清にとっては原田さんがそれにあたるのかも。
さて、その後は団欒のコーナー。このお話、今回に限らず家族揃っての食事の様子が描かれます。リカコに対してのちゃぶ台返しが多いのも、それ故。食卓というのはまさに家族を表す鏡になっているんですよね。人と人の繋がりを、家族の絆を描くこの物語にとって、食事のシーンは絶対に欠かす事のできない場面なのです。そして七夕のメニューはそうめん。普段から割と凝った料理を作る杳ですが、今回もそうめんと言えどこだわります。それがニンジンを星形にくりぬくというもの。清と一緒にくりぬいた星を、そうめんの上に散りばめて、ほらそこに天の川が。そのそうめんは、みんなで一緒にいただきます。もちろん、亡き母の写真にもお供えして…

さて、何気なく描かれているこのシーン。さらっと「お供えするよね、うん」って感じで読み進めても良いのですが、ここでも再び1巻の冒頭に戻ってみましょう。そこで出てくるのはこんなシーン…

そうめんはお母さんの好物
そう、そうめんはお母さんとの思い出を手繰り寄せる、思い出のメニューだったのです。単純に夏場の定番メニューってわけではなく、1年に一度会えるこの日に敢えてのそうめん。お盆とかでも良いのですが、七夕で星を絡めながらってのが素敵じゃないですか。さらっと描かれているシーンも、ちゃんとつながっていて、理由がある。その深さに感動。
そしてもう一度、そうめんと母親のくだりが登場するんですよね。それが物語のラスト付近。そこで再び清は落ち込むのですが、その時の台詞がまた泣かせるのですよ…!加えてそんな彼女にやさしい言葉をかけて、ちゃんとフォローするお父さんさすが。このお話を読んでいてつくづく感心するのは、お父さんもリカコさんもその他の登場人物の大人たちも、みんなこどもとの距離の取り方、接し方が上手。多分自分はこんなに上手く気の利いた事言えなそうです。あーでも、もしかしたらそういう言葉は、大人が発しているのではなく、子供が引き出しているのかも。そんな言葉を引き出してくれるような魅力がまた、子供たちにはあるんですよね。
■購入する→Amazon