
誰かと誰かの間には
タイミングがあってさ
■「その日もずっと私は私で、世界に一人だけの私だった。それが今、この世に二人いる!!」
謎の天才のおかしな科学実験に巻き込まれて、二人に分裂してしまったのは、ごくごく普通の女子高生・綾子。戸惑いながらももう一人の自分と最初に共有したのは、急逝した姉の思い出だった。増えた心と失くした心、その先は…?
コミックリュウにて「第七女子会彷徨」を連載し、一部で非常に話題になっている、つばな先生のKISS連載作品でございます。まさかつばな先生の作品のレビューをすることが出来るとは思っていなかったので、ちょっとびっくり。2010年1月号からゆっくりと連載を重ね、先月にようやく単行本が発売されました。本作で描かれるのは、日常に溶け込んだ違和感のありすぎる非日常。ごくごく普通の女子高生・綾子が、ある日偶然出会った天才科学者によって二人に分裂してしまうことから、この物語ははじまります。全く同じ女の子が二人。思念は共有出来ないけれど、自分だから相手の思うことはわかる。そんな二人が戸惑いながらも共有したのは、昨年亡くなった姉の思い出。なんだかすっきりした二人は、このことを家族に打ち明け、以降二人での生活を送ることになるのですが…?

意外と楽しいふたりの生活。話は合うし、考えてることもなんとなくわかる。すんなりこの現実をうけいれてみる。
つばな先生のお話は、なんだか不思議な世界観で構成されていて、この感覚はもう「実際読んでみて!」としか言えないというか。割とありえないことが起こっているのですが、当事者達は慌てつつも意外と簡単にその現実を受け入れているという、その違和感こそがつばな作品の面白さの源泉。今回のヒロインも、自分が二人になるというその事実は割と簡単に受け入れて、その後の二人の想いというものがメインで描かれていきます。家族に打ち明けるまでは良いものの、そこから先はさすがに二人では無理。学校には一日交代で一人二役で通うことに。そしてそこから生まれる、お互いの行き違い。憧れの先輩とのデートも、自分だけが行って良いものかとなんだか罪悪感。。。そしてやがて明らかになる、分裂した片方の正体。物語は不安定に転がりつつも、やがて本当に描きたかった一つのメッセージを辿っていくことになります。
一見すると、分裂してどうしようというドタバタコメディなのですが、この物語で描きたかったことは恐らくだいぶ暗くて、簡単に笑えるものではないもの。そのキーとなるのが、分裂とは一見関係ないように見える、亡くなった姉の存在。思わぬ形でリンクしていくことになるのですが、そのやりとりがすごく馬鹿げていながらなんだかすごく切ないのです。つばな先生はあとがきで、この物語についてこう語っておられます
普通は笑えないようなことも、
フッて笑えてしまうように表現できたら
それが一番幸せだし、
そんな世界を受け入れられたら、
結構生活は楽しいものになるんじゃないかなー?と思うのです。
フッて笑えてしまうように表現できたら
それが一番幸せだし、
そんな世界を受け入れられたら、
結構生活は楽しいものになるんじゃないかなー?と思うのです。
物語の土台となる非日常の上に乗っているのは、日常の中に暗く影を落とす辛いものであったり悲しいものであったり。なにしろ不思議な物語なので、つばな先生が云わんとしていたことをちゃんと受け取れているかはわかりませんが、ラストまで読んで少なからず救われた感覚があったのは確か。その感覚を、上手く言葉にして伝えることが出来ないのが残念というか、悔しいのですが、せめて少しでもこの作品に興味を持ってもらえたらと思います。

物語の背景にあるのは、もっともっと辛い気持ちや悲しい気持ち。それをつばな先生なりに噛み砕いて、読ませる物語へと昇華させた。
ノリとしては「第七女子会彷徨」とあまり変わらないかと思います。あちらの方があれやこれや取り入れていて、もっととっちらかって楽しい感じ。つばな先生のファンであればこちらの作品も楽しめると思いますし、逆に本作を気に入ったのであれば「第七女子会彷徨」も楽しめるんじゃないかと思います。というわけで、オススメですよー。
【男性へのガイド】
→つばな作品ですし、好きな人は好きだと思います。この作品だけじゃなく、その他のレビューサイトでもつばな先生の作品は取り上げられていますし、気になったらちょっと調べてみると良いかもしれません。
【感想まとめ】
→かなり好き。というかかなり印象的で、読後感もすごく良かった。万人受けするような作品かはわかりませんが、この素晴らしさを分かってくれる人はすくなからず居てくれると信じたい。
作品DATA
■著者:つばな
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■全1巻
■価格:590円+税
■購入する→Amazon