
おまえの世界へ戻れ
■幼い頃から誰かの気配を感じていた藍。勉強も運動もまるでダメ。いじめられそうになったこともあるけれど、何故だかみんな自分には手を出そうにも出せなかった。そんなある日、迷い込んだ異世界で母親によく似た少女・すずろと出会う。彼女こそ、両親の本当のこどもで、自分は異世界の出身で、母親のお腹の中で二人が入れ替わったのだと知った藍は!?
「つづきはまた明日」(→レビュー)などを描かれている紺野キタ先生の、不思議な「縁」で結ばれた少年と少女の交流を描いたチェンジリング・ファンタジーでございます。あらすじ読んでもよくわからんという方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にこういうお話なので。。。主人公はどんくさくて勉強もできなくて、容姿も家族とは全然違う中学生の男の子・藍。生まれたときから誰かの気配を隣に感じていた彼は、ある日偶然発見した異世界への入り口を潜り、一人の少女と出会います。その少女こそが、自分が幼い頃から感じていた気配の持ち主。すずろと名乗るその少女は、見るからに母親にそっくりで、母親のお腹の中で彼女と入れ替わってしまったことを知るのでした。以後たびたび異世界を訪れるようになった藍ですが。。。というお話。
日常に潜む異世界への扉と、自分の出自とその存在意義について思い悩む少年のお話。紺野キタ先生の作品は、割とあたたかい家族関係を描くことが多いような気がしていたのですが、今回は出発点に割と仲の悪い家族関係というのがありまして。妹と祖母から疎まれていて、そのことを本人も気にしているんですよね。そして自己評価が下がりどうにも我が家に居場所を見出せないでいる中、実は自分が母親の子供でなかったことがわかり、一層当人は葛藤することに。しかも自分は虫の子供だと来たもんだ。虫の子供である以上、生きやすいのは異世界であって、またすずろは本来こちらの世界で生きるべきだった。おとぎ話然としていますが、そこで描くのは結構シリアスで重苦しい話だったりします。

すずろとの出会いで、揺らぐ自分の居場所、存在。
異世界についてはあんまり説明ないのですが、それも語らせず雰囲気で享受してもらえれば。ベースはすずろとの対話。表紙の女の子ですごくちんまりとしているのですが、その物腰はわりとハッキリ。全てを見通しているかのような話し振りでもあります。その他にもなんだかヘンテコな生物が出て来たり、ファンタジックな要素はたくさん。作中でも「神隠し」という言葉で語られていますが、千と千尋の神隠しなどにも通ずるような、和ファンタジーとなっていますよ。
様々な出来事や葛藤を経て、結局藍はひとつの答えを導き出すことになるのですが、その答えというのが多くの選択肢から自ら選び取るのではなく、“それしかなかった”上で自ら納得させるというように映るのが、この物語の美しさでもあり、納得しきれないところでもあったり。最初の設定から、自ら選びとっていくブレイブストーリー然としたものを想像していたのですが、恐らくそれは最初から考えられていなくて、どちらかというと今置かれている現状を納得させるという方向のお話なのかな、と思います。そういう構えで読めば、全く違和感なし。どちらにせよ、淡く派手さはなくともラスト非常に「救われた」感のある素敵な物語となっています。
【男性へのガイド】
→紺野キタ先生の作品は男性もお好きな方多し。すずろもさることながら、多分この主人公こそが受け入れる間口を広くしてくれる存在かと見ています。
【感想まとめ】
→終始雰囲気が良いわけでも、メッセージがはっきりと伝わってくるわけでもないのですが、それでも最後しっとりあたたかく終わらせてくれるので読後感は良いです。紺野キタ先生のファンタジーがお好きな方は是非。
■作者他作品レビュー
「SALVA ME」/「日曜日に生まれた子供」/「夜の童話」
作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:新書館
■レーベル:ウイングスコミックス
■掲載誌:ウイングス
■全1巻
■価格:590円+税
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