作品紹介→柑橘の香り流れる、中学生の青春群像:香魚子「シトラス」1巻
作者他作品レビュー→「さよなら私たち」/「隣の彼方」
香魚子「シトラス」
いつかきっと思い出すはず
胸いっぱいに満ちる
シトラスの日々
■2巻発売、完結しました。
自分の居場所を探す奈七美。片想いに区切りをつけようとする崇。周りに素直になれない苛立ちをぶつける蒼馬。そして、ピアノで文化祭に有終の美を飾ろうと奮闘する志保。それぞれが、卒業を前にして未来へ踏み出す準備をする。そこに甘さはない。ただ酸っぱくて苦いばかりの、シトラスの日々。
~完結しました~
2巻にて完結しました。もうちょっと続くのかと思っていたのですが、早くも完結ということで、ちょっと驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も最初は不完全燃焼感があったのですが、そもそも香魚子先生が描こうとしていたテーマからすれば、この巻での完結もある種納得であり、良い完結であったとも思います。もうちょっと甘さを出してくれても良かった気がしますけど。
~酸っぱく苦いだけの中学時代~
この作品のコンセプトは作中で語られ、また帯にもあるように下記のようなメッセージで表されています…
とにかく「甘さ」はなく、酸っぱく、そして苦いだけの中学時代。それが大前提としてあるがために、1巻にて失敗したり気まずくなったりした各キャラクター達は、2巻に入ってもその傷を成功体験によって癒すことはできないどころか、また違った失敗や辛さを経験します。その中でも特に印象的だったのが、奈七美と志保のダブルヒロイン。崇も蒼馬も辛い経験をしていますが(崇のそれは結構気持ちがわかるだけにめっちゃ感情移入してしまいましたよ…)、それ以上にこの二人の「涙」がもう痛々しくて痛々しくて。。。
~うれし涙なんてひとつもない~
もうとにかく失敗体験しかさせない本作ですから、そこに嬉し涙なんてものは存在しません。一番最初に涙を流したのは、志保。ただ漠然と思い描いていた夢を、奈七美の心ない言葉に踏みつぶされて…

自分がみじめになって泣く
1巻の時点では「挫折と成長のストーリー」なんて書いてありつつも、割と真っ当な青春ストーリーだと思っていただけに、この涙も恋愛へと繋がる涙かと思っていたわけですよ。けれども完全にそうだとは言い切れない結果で。そしてさらに辛いのが、2度目の涙。1度目の涙はピアノから、自分のみじめさを感じ涙を流したのですが、2度目もまたクラス発表の伴奏で失敗。しかもあの時めっためたにされた、奈七美のサポートで場を乗り切るという。この、一度負けた土俵で再び負かすっていう、挽回させないこの鬼畜さがすごいです。最後にちょっとだけ救いを用意してくれましたが、後悔しないわけはなく、ずっとこのことは記憶に残り続けるのでしょう。
さて、一方の奈七美もまた、2巻では泣き通しでした。志保は割と前向きであるために、涙を重ねても割と容易にリセットできる印象があるのですが、奈七美の場合は溜め込みそうで、痛々しさが他のキャラクターの比ではなかったです。最初見せた涙は、信じ続けた相手による拒否(といっても奈七美が勝手そう受け取っただけですが)。いや、拒否というよりは、その人を信じて胸に飛び込む勇気のなかった彼女自身の弱さなのかもしれません。結果的に東京へ戻る意欲は減退。なんとなく過ごしている中で、崇と触れ合いこの地で生活を送ることに前向きになります。そしてちょっとツン混じりで、彼の進路を聴いてみてたら、まさかの別の高校への進路決定の話が。。。

このこらえ顔が本当に切なくて切なくて。他のどんな涙を流している表情よりも、とにかくこれが一番痛々しくて、見ていて辛くなりました。最初の涙が、今までずっと信じていた人からの裏切りによるもので、今度はそこからの切り替えで、新たに初めて信じてみた人からの裏切りで、というこのキツさ。もう一押し、素直にいけない彼女自身が招いた事態でもあるのですが、それを中学生に求めるのはあまりに酷で。もうどうしろと。この後改めて東京行きを決意した彼女の顔は、どこか晴れやかでもあったのですが、どうしたらそんな表情ができるのか、ちょっと不思議でもありました。自分なら潰れてるね。奈七美は本当に強くて素敵な女の子だと思います、はい。
~これ以上続ける必要はあったのか~
最後まで甘さを見せることなく終わった本作。本当に驚くほど厳しかったですよね。青春の痛い所を、これでもかと抽出してきたような。それでも長く続いたら、少しでも甘さは出てきたのでしょうか。多分答えはノー。挫折することが前提であり、失敗と救いの繰り返しこそがこの物語では意味を持つ状況である以上、その先に"達成”が訪れることはなく、繰り返せば繰り返す程に物語は重く読み疲れるものになってしまうはずです。シトラスを絞り続けたとしても、蜜が出てくることはなく、そこに残るのは苦い苦い皮だけ。だからやっぱり、2巻くらいがちょうど良かったのだと思います。
■購入する→Amazon
作者他作品レビュー→「さよなら私たち」/「隣の彼方」

いつかきっと思い出すはず
胸いっぱいに満ちる
シトラスの日々
■2巻発売、完結しました。
自分の居場所を探す奈七美。片想いに区切りをつけようとする崇。周りに素直になれない苛立ちをぶつける蒼馬。そして、ピアノで文化祭に有終の美を飾ろうと奮闘する志保。それぞれが、卒業を前にして未来へ踏み出す準備をする。そこに甘さはない。ただ酸っぱくて苦いばかりの、シトラスの日々。
~完結しました~
2巻にて完結しました。もうちょっと続くのかと思っていたのですが、早くも完結ということで、ちょっと驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も最初は不完全燃焼感があったのですが、そもそも香魚子先生が描こうとしていたテーマからすれば、この巻での完結もある種納得であり、良い完結であったとも思います。もうちょっと甘さを出してくれても良かった気がしますけど。
~酸っぱく苦いだけの中学時代~
この作品のコンセプトは作中で語られ、また帯にもあるように下記のようなメッセージで表されています…
青春が甘酸っぱいなんて嘘
ただ酸っぱくて苦いだけのシトラスの日々
ただ酸っぱくて苦いだけのシトラスの日々
とにかく「甘さ」はなく、酸っぱく、そして苦いだけの中学時代。それが大前提としてあるがために、1巻にて失敗したり気まずくなったりした各キャラクター達は、2巻に入ってもその傷を成功体験によって癒すことはできないどころか、また違った失敗や辛さを経験します。その中でも特に印象的だったのが、奈七美と志保のダブルヒロイン。崇も蒼馬も辛い経験をしていますが(崇のそれは結構気持ちがわかるだけにめっちゃ感情移入してしまいましたよ…)、それ以上にこの二人の「涙」がもう痛々しくて痛々しくて。。。
~うれし涙なんてひとつもない~
もうとにかく失敗体験しかさせない本作ですから、そこに嬉し涙なんてものは存在しません。一番最初に涙を流したのは、志保。ただ漠然と思い描いていた夢を、奈七美の心ない言葉に踏みつぶされて…

自分がみじめになって泣く
1巻の時点では「挫折と成長のストーリー」なんて書いてありつつも、割と真っ当な青春ストーリーだと思っていただけに、この涙も恋愛へと繋がる涙かと思っていたわけですよ。けれども完全にそうだとは言い切れない結果で。そしてさらに辛いのが、2度目の涙。1度目の涙はピアノから、自分のみじめさを感じ涙を流したのですが、2度目もまたクラス発表の伴奏で失敗。しかもあの時めっためたにされた、奈七美のサポートで場を乗り切るという。この、一度負けた土俵で再び負かすっていう、挽回させないこの鬼畜さがすごいです。最後にちょっとだけ救いを用意してくれましたが、後悔しないわけはなく、ずっとこのことは記憶に残り続けるのでしょう。
さて、一方の奈七美もまた、2巻では泣き通しでした。志保は割と前向きであるために、涙を重ねても割と容易にリセットできる印象があるのですが、奈七美の場合は溜め込みそうで、痛々しさが他のキャラクターの比ではなかったです。最初見せた涙は、信じ続けた相手による拒否(といっても奈七美が勝手そう受け取っただけですが)。いや、拒否というよりは、その人を信じて胸に飛び込む勇気のなかった彼女自身の弱さなのかもしれません。結果的に東京へ戻る意欲は減退。なんとなく過ごしている中で、崇と触れ合いこの地で生活を送ることに前向きになります。そしてちょっとツン混じりで、彼の進路を聴いてみてたら、まさかの別の高校への進路決定の話が。。。

このこらえ顔が本当に切なくて切なくて。他のどんな涙を流している表情よりも、とにかくこれが一番痛々しくて、見ていて辛くなりました。最初の涙が、今までずっと信じていた人からの裏切りによるもので、今度はそこからの切り替えで、新たに初めて信じてみた人からの裏切りで、というこのキツさ。もう一押し、素直にいけない彼女自身が招いた事態でもあるのですが、それを中学生に求めるのはあまりに酷で。もうどうしろと。この後改めて東京行きを決意した彼女の顔は、どこか晴れやかでもあったのですが、どうしたらそんな表情ができるのか、ちょっと不思議でもありました。自分なら潰れてるね。奈七美は本当に強くて素敵な女の子だと思います、はい。
~これ以上続ける必要はあったのか~
最後まで甘さを見せることなく終わった本作。本当に驚くほど厳しかったですよね。青春の痛い所を、これでもかと抽出してきたような。それでも長く続いたら、少しでも甘さは出てきたのでしょうか。多分答えはノー。挫折することが前提であり、失敗と救いの繰り返しこそがこの物語では意味を持つ状況である以上、その先に"達成”が訪れることはなく、繰り返せば繰り返す程に物語は重く読み疲れるものになってしまうはずです。シトラスを絞り続けたとしても、蜜が出てくることはなく、そこに残るのは苦い苦い皮だけ。だからやっぱり、2巻くらいがちょうど良かったのだと思います。
■購入する→Amazon