
…彼女が
溶けて消えそうに見えたので
■心臓疾患のため、生まれてすぐに余命20年と宣告を受けた育。無気力なままに地方の女子校に赴任してきた正嗣。優等生である自分を好きになれない万喜。上手くいかないこともあるけれど、柔らかな幸せを感じるそれぞれの日々。「明日を今日にする」のは、こんなにも大切なことで、「当たり前の毎日」は、奇蹟が積み重なったものなんだ…
シギサワカヤ先生のウイングスでの連載作です。シギサワカヤ先生の作品を当ブログでご紹介するのは初めてなんですよね。確かにあまり女性向けの媒体で描いているイメージがありません。こちらはウイングスにて連載されていた作品になります。もう表紙の女性の表情を見ただけでやや生気を削がれる感じで、「ああ、シギサワカヤ先生だなぁ」と(笑)
物語は主要登場人物となるとある3人の視点が巡り巡る形で進んでいきます。一人目は表紙に描かれている少女・育。生まれてすぐに20歳まで生きられないかもと余命宣告をされ、以来両親の過保護の元、どこか無気力に流されるように生きてきた彼女は、1999年のとある騒動(ノストラダムスのあれです)に自分の運命を託すように(というかヤケクソに)、とある大胆な行動に出ます。そのターゲットとなったのは、彼女が通う女子高で教師をしている正嗣。父との確執から家から追い出され、親類を頼って縁故採用でこの女子校へ流れてきた彼が、この物語の2人目の主要人物。当然熱意など持っておらず、なんとなくで日々を過ごしていたところ、少し関わったことのある育から、卒業を前にしてまさかの逆プロポーズを受けるのですが…というお話。

ありふれた言葉であっても、使い方一つで誰かを救うかもしれない。見える形、見えない形での奇蹟が積み重なり、明日を作る。
結局世界は滅びずに、けれど何故だかその結婚の話は流れずに、お話は続いていきます。そこを軸に、さらに物語に絡んでくるのが、育の小学校からの友人である万喜。メガネにちょっと無愛想な感じは、まさに“委員長”というタイプの真面目な彼女は、数少ない育の心許せる友達でした。以上3人の視点が入れ替わり立ち替わり、時は1990年代前半から、今の今まで飛び飛びに描かれ紡がれる物語は、幸せばかりではないけれど、それでもその中に埋もれた小さな幸福をしっかりと切り出し、心にじんわりと沁みるお話となっています。
まず特徴的なのは、登場人物たちの名前でしょう。体が弱く余命宣告すらされているヒロインが「育」。跡継ぎ失格の烙印を押され、半ば逃げるように家を出ることになった相手役は「正嗣」(嗣は跡継ぎとかいう意味があります)。そして真面目に生きすぎたがために、人並みの触れ合いや喜びを掴んでこれなかった感のあるヒロインの友達が「万喜」。序盤物語に漂うのは、それぞれその背中に背負う「願い」に応えることができず、どこか無力感さえ感じさせる空気。そんな毎日を変えるきっかけとなるのは、人騒がせな予言であったり、絶対に関わることもないであろう歳の違う子であったり、自分とはタイプの違う器用な同僚であったり。

タイプの違う人間だからこそ話して楽しいこともあるし、同じ部分を抱えているからこそ仲良くなれることもある。終始真面目なわけでもないし、時には楽しく。コメディパートももちろんあります。
意識してみなければ、これらはどこにでもあるような何気ない日常の風景。けれども意識してみれば、それは特異なシチュエーションで、そして深く見つめ考えれば、奇蹟の積み重ねのようにさえ思えてくる。タイトルの「さよならさよなら またあした」という何気ない言葉も、この物語を読み終えて改めて見返してみると、その重みがわかるってものです。相も変わらずどうすることもできない無力さはあるけれど、その中でも自ら意思を持って生きていくためのちょっとしたヒントが、無駄に飾られることなく描き出されている一作。読んだ人には、何かしら感じるものがあるのではないでしょうか。毒とも薬ともわからない、独特の雰囲気を纏った作品ですが、一読の価値はあると思いますよ?
【男性へのガイド】
→シギサワカヤ先生自身、様々な雑誌にて描かれてますしそもそもの受け皿は広いかと。単純に作風が合うか合わないかの問題じゃないでしょうか。
【感想まとめ】
→またしても読むのにエネルギーを使う作品が。ただこちらはHPがガリガリ削られている感はそんなになかったので、割と救いのあるお話なんじゃないかと思います。最後をどう受け取るかですが、それは読んでからのお楽しみ。
作品DATA
■著者:シギサワカヤ
■出版社:新書館
■レーベル:ウイングスコミックス
■掲載誌:Wings
■全1巻
■価格:590円+税
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