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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.12.17
1106102365.jpg石据カチル「空挺懐古都市」(1)


僕は毎日君を忘れ
毎日君に出逢い
毎日君に恋をする



■海面が上昇し、大地が小さくなりはじめた世界。やがて大地は海に飲み込まれ、陸地はなくなってしまうという。そんな中、人々は“化石燃料”の出す蒸気を浮力とする巨大な「空挺都市」を海上に作った。この都市に憧れ、技術者として移住した風波トキは、不思議な少女・花宮ユナと出逢う。しかし、華やかな都市発展の裏に隠された秘密が、ふたりの運命を大きく変えていく…

 アヴァルスで「イルゲネス」のコミカライズ(→レビュー)などを描いていた、石据カチル先生の初オリジナル連載になります。掲載誌はflowersの増刊である凛花ということで、なんだか石据先生のイメージと違っていてすごく意外でした。そんな中描かれたのは、とある空挺都市を舞台に織り成される男女二人の物語。空挺都市というのは、海上に浮かぶ代替の陸地。海面上昇によって年々陸地が減っており、遠くない将来には陸地が全て海に飲み込まれてしまうと予想されており、その打開策として開発されたのが空挺都市なのです。空挺都市の動力源はとある“化石燃料”の出す蒸気。都市の浮力を生み出すエンジンが集約されている場所は「燃料街」と呼ばれ、多数の技術者がそこで働いています。主人公のトキも、そんな「燃料街」で働く技術者の一人。日々増える仕事量の前に、何か大事なものをなくしているような、そんな気持ちに苛まれるようになったある日、彼の前に哀しげに微笑む一人の少女が現れます。初めて出逢ったはずなのに、なぜか気になるその存在に、トキは…


空挺懐古都市1
哀しげに微笑む、見知らぬ少女との出会いから物語ははじまる。


 美麗な絵柄で描かれるSFチックなストーリー。先のあらすじにさらに捕捉を追加すると、この"燃料街”ではこの街特有の奇病「古妖精病(メランコリア)」が流行っており、それが物語を紐解くファクターとして登場してきます。メランコリアの症状は、心に一番依存している人(=一番大切な人)を忘れてしまうというもの。それは恋人であったり、親であったり。忘れてしまうのでもちろん当人に自覚はなく、また周囲の人間は疾患者への精神状態への配慮から、忘却対象者と詳細な関係は伝えないという暗黙の了解が共有されているのです。そのため、自身の症状は自覚できないけれど、周囲の人間の症状は知覚できているという奇妙な状況を生んでいるという。“感じ”の良い方は既にピンと来ているかもしれませんが、主人公の目の前に現れた「見知らぬ少女」というのも、そこに関係してきます。物語は、主人公・トキと不思議な少女・ユナとの悲しく切ない触れ合いを起点として、さらにもう一段踏み込んだ形で、世界が広がっていくことになります。
 
 とにもかくにも、この絵柄の美しさは格別。単行本の装丁も美しく、大判のため平積みにされていると非常に目立ちます。また本編の方も、何か大きな後ろ暗さが感じられる街の雰囲気と、不思議な存在であるユナの醸し出す雰囲気と良く絵柄がマッチしていて、ページを眺めているだけで眼福です。上手いというか、美しい。


空挺懐古都市
苗字が漢字であることからもわかるように、ベースモデルとなっているのは日本です。正確な時代感はわからないですが、一応現代かと。そこに古風な要素であるとか、異国情緒を織り交ぜつつ、より華やかな見ために。


 元々読切りとしてスタートしているということもあって、1話目は「この世界はどうすることもできないけれど、それでも二人は生きていく」というような、やや小さな世界で完結するラブロマンスとして描かれているのですが、連載化した2話目以降からはやや方向転換。1話目からするとより“過去”である、二人の出逢いと触れ合いが、2話目以降は描かれていきます。その中で明らかになるのは、ヒロインであるユナが何やらこの世界では「特別な存在」であり、この都市ひいては世界の命運すら握る鍵になりかねない存在であるということ。背景設定も相まって、ラブロマンスというよりも、よりディストピアものに近い様相を呈してくることになります。
 
 結果として物語の世界の大枠を広げることになったのですが、これが果たして吉と出るか凶と出るか。例えば「メランコリアの存在は技術者達は気づいているのに、自らの忘却については何も疑わないのがなぜか」など、気になる点もチラホラ。詰まる所割と設定甘めに思えるのですが、ディストピア色が強くなり、結果そういった部分が評価のウェイトとして大きくなりすぎるのは、ちょっともったいないような気もしているのです。というか、既に今の時点で「もったいない」とか思ってしまえる程には、読切りとしての纏まり方と絵柄の絢爛さが際立っていたということなのですが。ネタとしても特に目新しいものではありませんが、それでも一気に作品に引き寄せる魅力を持つツボな絵柄と話運びの上手さ。絵柄先行でオススメするのは気が引けるのですが、これに関してはそんなの一切気にしていないほど、個人的には好きでした。


【男性へのガイド】
→主人公は男の子。ちょいとお耽美な感じのあるキャラ造形ですが、そういうネタはあまりなく。ただし人物のシルエットがかなりシャープなので、そこが苦手という方は終始気になるかもしれないです。
【感想まとめ】
→オリジナルでもこんなに綺麗にまとめてくる人だとは思っておらず、おみそれしました。個人的には大判の価格払うだけの価値は十二分にあったかと。表紙もきれいなので、置いておくだけでも絵になりますし。



作品DATA
■著者:石据カチル
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックススペシャル
■掲載誌:flowers凛花
■既刊1巻
■価格:743円+税


■購入する→Amazon

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