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Tag [新作レビュー] 2011.12.19
1106069738.jpg華夜「かなめエトワール」



役を心で感じるの


■憧れのバレリーナ・美姫様を追いかけて、名門バレエ学園に入学したかなめ。しかし、なぜか美姫様とともにコンクールの代表に大抜擢されてしまう。数々の名選手がいるなか、まだバレエを始めて2年のかなめは、まだまだ荒削りな原石。妬み恨みからの妨害、美姫様との実力の差…。幾多の困難がかなめの前に立ちはだかるが、それを超えたとき、かなめの秘められた才能が…!

 sho-comiの作品レビューするの本当に久しぶりな気がします。というくらい、Sho-Comiの作品って苦手なものが多いのですが、本作はSho-Comiの中でも異色の出来で、これは是非とも紹介せねば、と。華夜先生の5冊目の単行本(もうこんなに出てたんだ…)となる本作は、3話完結の表題作のほか、読切りが2作収録されています。この表題作がとにかく驚きでして。
 
 描かれるのはとある名門校でバレーに励む少女の成長譚。ヒロインのかなめは、バレエを始めてまだ2年の女子高生。中学の時に見た美姫様のバレエに感動し、追いかけるように彼女が通うバレエの名門高校へ転入してきたのでした。憧れの美姫様と同じ環境でバレエが出来る…それだけで充分満足だったのに、直後発表のあった全国バレエコンクール代表者に、何故かかなめが美姫様と共に選出。以降、彼女の怒濤の日々がはじまることになるのでした。。。


かなめエトワール
この一心。恋とかそんな要素入ってこず、がむしゃらに先輩だけを見続けます。


 全力でスポ魂です。才能を見出されるも、開花にはまだ遠い。そんな彼女に立ちはだかるのは、周囲の嫉妬、練習の厳しさ、そして弱い自分。それらの辛いことを超えてはじめて、新たな世界を見ることができるわけですが、この文法はステレオタイプの少女漫画スポ魂もののそれ。めちゃくちゃアツいです。しかも根底にあるのは百合。コーチや先輩との恋愛展開はありません。高貴な先輩との百合風景もまたやや古風な少女漫画のそれで、この二つを併せてきますか、と。野獣系な黒髪ドS男子が跋扈する昨今の少コミにおいて、スポーツでしかも男女恋愛一切なしというアプローチは異色中の異色と言えるでしょう。

 なんとなく恋愛に発展しそうな先輩もいることにはいるのですが、いかんせん3話完結であるためにそこまで手を出す余裕はなし。バレエに関するウェイトが非常に大きいため、恋愛要素を入れることすらままなりません。そこで、同じ舞台で活躍する憧れの先輩を配置して、恋愛的に展開。3話完結という中で、しっかりとそこを折り畳んできたのはお見事。だいぶ詰め込んでいるために、どこか忙しなく展開が早い印象もあるのですが(そもそもたった3話で成功体験までもってくってところに無理があるわけですが)、物語としてはきちんと成立しており、読後感も良かったです。何よりこのようなチャレンジングな作品を描いたという、それだけで素晴らしいことだと思います。
 

【男性へのガイド】
→少女漫画的なそれですが、少コミ基準でいえばかなり読みやすい方にはいるかと思います。
【感想まとめ】
→ちょっとこういう作品は予想していなかったので、驚き。面白いというか、すごいとただ感心しました。こういうアプローチ、この先もして欲しいなぁと個人的に思っています。


作品DATA
■著者:華夜
■出版社:小学館
■レーベル:Sho-Comiフラワーコミックス
■掲載誌:Sho-Comi
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon


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