
こんなに雨が冷たいのに
いつまでたっても頬が熱い…
■今は昔。犬と人、ふたつの姿を持つ“ワンニン”という忍者がおりました。犬の姿のときは愛らしい柴犬、人の姿の時はこれまた可愛らしい“くのいち”であるハヅキは、まだ上手に人型に変化できないひよっ子ワンニン。変化しても、耳としっぽが残ってしまうのでありました。そんなハヅキが町へ下る途中で偶然助けたヘタレ侍…そのお方がなんとハヅキのご主人様となる人だったのでございますが…
ARIAコミックグランプリを受賞されたほおのきソラ先生のデビュー作になります。ワンちゃんの忍者が主人公のお話で「ワンニン」。実に分かりやすいタイトルですね。それでは、ストーリーのご紹介を。時代は恐らく江戸時代、人里離れた山奥に、犬と人の二つの姿を持つ忍者集団がいました。術を使って人の姿に化けることの出来る彼らは、「ワンニン」と呼ばれ、人知れず人間に仕え、主人に忍びよる妖怪や悪霊を退治しているのでした。主人公のハヅキはこの度初めての奉公を命ぜられた駆け出しのワンニン。まだ満足に変化もできない半人前ですが、やる気だけは人一倍。一緒に鍛錬を積んできたハンゾウと共に町へと下り、ご主人様にお仕えするのですが、そのご主人様というのがなかなかの変わり者で…。

普段の姿。変化を使うと、表紙の人間の姿になります(忍者ルック)
遥か昔に契られた契約を守り、代々主人の家系を妖怪・怨霊から守ってきたワンニン。ご主人には基本的に犬の姿しか見せませんが、人間の世界で生活し身を守るという任務にあたる以上、人間の姿であることの方が何かと好都合だったりするようです。そんな中、まだまだ自分の姿を操りきれない若いワンニンであるヒロインのハヅキは、初っぱなからご主人様と人間の姿で対面してしまうハプニングに見舞われます。その後も注意はしていても、度々人間の姿で遭遇。人間の姿を見られるというのは御法度であるためもちろん自分の身分は明かしませんが、このご主人というのが何かと人懐っこく、親しげに愛情をもってハヅキに話しかけてきたり…。結果生まれるのは、忠誠という気持ちを超えた、主人への恋。忍と主人、そして犬と人という二重の障壁が立ちはだかる非常に難儀な恋物語へと、お話は転がっていきます。
人間の姿の時も犬耳が残り、また犬の姿の時もとっても可愛らしい。ヒロインのハヅキはとっても前向きながら、向こう見ずなところもあり、良く言えば素直で、悪く言えば未熟。主人の優しい言葉にすぐにほだされ、割と簡単に相手を意識するようになるあたりは、小学生くらいの女の子のようにすら映ります。この未熟さが魅力で、紙一重で苛つきへと結びつけない愛らしさは一体どこから来ているのか…。見ためはこう、スポーツものとかの元気なヒロインのそれなのですが、どこか憎めないというか。なお相方のハンゾウは絵に描いたような無口。幼なじみということですから、当然これからの関係の変化に期待ですよ。

主人がなかなか食えない人間。単に変わり者の心優しい人なのかもしれないのですが、とにかく相手との距離が近い近い。
「犬の忍者が妖怪退治で主人に恋」なんていうととっても欲張りな設定になっているのですが、どれもこれもキャッチーで詰め込みすぎという感は全くありません。絵柄も初単行本とは思えないほどに安定していて、非常に読みやすいです。また起きる事件も、この手の時代ものファンタジーにありがちな無駄に血なまぐさいようなものではなく、割と安心してみていられる内容。分かりやすさと良い意味での軽さ・小気味よさは、昔のエニックスのマンガとかに感じた匂いに近いものがあるかも。ファンタジーにわかりやすい真っ直ぐな恋愛というミックスは、元々自分がARIA創刊時に勝手に抱いていたイメージと被る物があって、「あ、やっと自分の想像してたARIAっぽい作品が読めた気がする」なんて、ちょっと変な方向で感慨深くなったりしました。
【男性へのガイド】
→元気一杯で正義感溢れるヒロインがお好きな方、犬好きな方、是非。
【感想まとめ】
→初単行本でこれって何気に凄いような気が。物語として大きな枠がない(ように見える)ので、ある程度先読みできる状況にあるものの、現在進行形でしっかり楽しめるようになっているので全く無問題だと思います。
作品DATA
■著者:ほおのきソラ
■出版社:講談社
■レーベル:ARIAコミックス
■掲載誌:ARIA
■既刊1巻
■価格:562円+税
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