
悲しみと
プライドの澄んだ匂いがする
■中学の入学式の日、山野内荒野は電車で少年・神無月悠也に窮地を救われる。小説家で恋多き父と、父の愛人たち、新しい義母、そして義母の連れ子……。中学入学と共に目まぐるしく変化する荒野の世界。環境、心、カラダ…その全てが、否応無く少女を大人への階段へ押し上げる。いま、少女の“あなた”と、かつて少女だった“あなた”に贈る、切なさの薫る物語…。
タカハシマコ先生のなかよしでの連載作になります。タカハシマコ先生となかよしというとなんとなくイメージが合うように思えるのですが、さらにこれが桜庭一樹先生の原作付きというのだから驚き。このタッグはフレックスコミックスフレアでの「青年のための読書クラブ」(→レビュー)と同じで、実際こちらも評判が良く、それを受けての再タッグということでしょうか。しかしガチ百合作品が連載されていたり、西炯子先生が連載していたりと、ここ最近のなかよしは一気にベクトルが…。
物語は一人の少女の成長譚(だと思います)。舞台は鎌倉、中学の入学式に向かう途中、電車のドアに服を挟まれた主人公・山野内荒野は、そのピンチを一人の少年に助けられます。メガネをかけた見るからにクールな、どこか憂いを帯びたような佇まいの彼。同じ駅で降りたものの、早足の彼の姿はすぐに見えなくなってしまいます。その後学校へ行ってみると驚き、なんとそこにはさっきの彼が。。。初対面のはずなのに、何故か自分を知っているような彼・神無月悠也は、なんと父の再婚相手の連れ子で…。そのことを知ったのは、荒野が悠也を少しずつ意識しはじめた頃でした…というお話。

中学生になったばかり。これから成長を迎える、女の子と男の子の恋。
第二次性徴を迎え、子供と大人の狭間で自分の変化と強く意識する年頃。その様子を、可愛らしく、けれども時に痛々しく切り取った本作。なかよし連載ということですが、恐らく本当のターゲット層はもっと上の年齢層だと思います。「青年のための読書クラブ」もどこか隠微さを漂わせるシーンはあったものの、それにも増してこちらは。なんというか、都度都度のアイコンとしてそういったワードやモチーフを、意図的に、半ばあからさまに落とし込んで来ているんですよね。「胸が大きくなる」とか「ナプキン」とか「ブラジャー」とか「性欲を伴った好意」だとか「彼の穿いていたパンツ」だとか。。。自分の意志に反して、ただただ大人へと変化していく身体・環境・心に、最初は戸惑いを見せつつも、やがて受け入れ自ら変化していくヒロインの様子から、目が離せません。

変わる自分を受け入れきれない。けれども否応無く変わってゆく自分。その葛藤を余すこと無く描き出す。
桜庭一樹さんの原作ということで、台詞回しや登場するフレーズがいちいちオシャレ。気どっているというか、どこか中二病っぽい感じも含めて、桜庭一樹作品だなぁ、と感じさせてくれます。登場人物が皆々どこか普通とは異なる感じなのも、またその一つ。最も浮世離れしているのは、恋愛小説家をしているヒロインの父。近場の女性を皆々虜にしてしまうくらい恋多き人で、多くの人を泣かせてきた(結果ヒロインに厄災がかかることも…)にも関わらず、突然娘に相談もなしに結婚すると言ってきたりするっていう。他にも謎多き家政婦さんや、相手役になるであろう悠也もちょっと変わった感じ。そこにあるのはとにかく非日常で非現実なのですが、それがヒロインの成長というある種生々しい部分を際立たせてもいます。悪趣味というと言葉が悪いですが、少なくとも読み手を気持ち良くさせようって魂胆はこれっぽっちもないです。そしてそれが良い。
そういった桜庭一樹テイストを残しつつ、併せて持つ毒々しさのようなものが、上手くタカハシマコ先生のふんわりとした絵柄で包まれて、独特の雰囲気を形成。相も変わらずわかりにくさを伴う物語なのですが、それでも読ませてしまう魅力があります。いや、ほんと分かりづらいんですって。ドロドロしたものが読み進める毎に溜まっていく感覚。なんだかさっきから褒めているのかどうかよくわからない感じになっていますが、やっぱりこのタッグは素敵です。原作を知らないのでこの先どう転がるのかはわかりませんが、続きを読まずにいられるかってんですよ。
【男性へのガイド】
→タカハシマコ先生絵ですし、桜庭一樹先生ですし、男女以前の向き不向きがあるような気がしますです、はい。
【感想まとめ】
→このタッグはやっぱり良いです。割とクセが強いので、なかなかオススメってしづらいんですが(笑)
■作者他作品レビュー
タカハシマコ「乙女座・スピカ・真珠星-タカハシマコ短編集-」
タカハシマコ「泣いちゃいそうよ。」
作品DATA
■著者:タカハシマコ/桜庭一樹
■出版社:講談社
■レーベル:KCなかよしDX
■掲載誌:なかよし
■既刊1巻
■価格:562円+税
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