椎名橙「それでも世界は美しい」(1)
渇える王に
それでも世界は美しい と■雨を降らせる能力を持つ「雨の公国」の第四公女・ニケ。彼女は嫌々ながらも国のため、即位から僅か3年で世界を征服した「晴れの大国」の太陽王・リヴィウス一世の元に嫁ぐことになる。若いとは聞いていたけれど、目の前に現れたリヴィウスは、そんなものではなくまだ子供…。
椎名橙先生の花とゆめでの連載作です。巻数が付く連載はこれで2作目。前回は「不思議のマリア君」(→レビュー)で現代を舞台に吸血鬼少年とのラブコメを描き出しましたが、今作は打って変わって異世界が舞台のお話です。物語の舞台は、太陽王・リヴィウスが世界征服を果たした「晴れの大国」。そんな彼の元に嫁ぐことになったのが、雨を降らせる特殊能力を代々受け継ぐ「雨の公国」の第四公女であるニケ、この物語のヒロインです。様々な噂のある太陽王の元に嫁ぐことになってしまった彼女、「どんな因業じじいだって愛してやろう」そう決意して対面してみると、そこにいたのは王にはまるでみえない子供で…というお話。
太陽王・リヴィウスは、子供とは言えやはりその統治者としての才は確かで、冷酷非道かつ効率的な自治を実現しています。しかしその年らしからぬ才を発揮しているだけあって、その考え方は感情がないというか、誰も信用していないような様子。いや、それ以前にこの世界にすら絶望しているかのように映るのでした。そんな彼を目の前にして、王ではなく人として接するニケ。公女とはいえ割とアクティブでがさつさを持っている彼女は、花に、星に、雨にと、この世界の美しさを無理矢理にでも彼に教えようとします。はじめは気にする素振りも見せなかったリヴィウスですが、彼女の熱心なアプローチによって段々と歩み寄りを見せていくように。それまでは見せることのなかった、人間らしい表情を見せるようになってくるのですが、それが実に微笑ましい。

お互い「王」と「王女」っぽくない感じの言葉遣い。もちろんお上品な言葉も使えるけれど、それは他所行き用。普段のペースはリヴィウスが握るけれど、ここぞという時力を発揮するのはニケ。
ショタっ子相手の恋愛もの…と年の差だけ見れば思えるのですが、ショタっ子の中でもリヴィウスは割と食えない奴なので、そういう感覚があまりないというのが個人的な印象です。ことリヴィウスが人間らしい表情を見せるようになるのは、恋愛方面というよりは、何か物事に感動した時など。恐らくここから段々と恋愛方面へと展開していくのだと思います。今も王様らしく上からで愛情表現してくるのですが、このまま行くのかなぁ。個人的には彼の赤面とか見てみたいです(変態)。
また彼女の愛情がそのまま彼の人間らしさへと直結すれば良いのですが、トップに立つものである以上、その命を狙われることも多く、なかなか上手くいかない部分もあります。またニケは信頼するけど、他の人は信用しないなんて状況もあったりと、ここからニケ以外の人物へとその枠を広げていく所も見所の一つとなるでしょう。幸せな二人でなく、幸せな国家というのが前提としてある以上、切りどころを見つけるのが難しい所だとは思うのですが、とりあえず今は二人の進展を見守るところから。1巻は非常に読み心地の良い一冊となっていました。オススメで。
【男性へのガイド】→生意気なショタさえ大丈夫であればOKだと思います。1巻の時点ではとっても読みやすい内容だと思いますよ。
【感想まとめ】→優しさが溢れる素敵な作品。タイトルも内容を良く表していて素晴らしい。
作品DATA■著者:椎名橙
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:花とゆめ
■既刊1巻
■価格:400円+税
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