
私たち家族になるんだから
■2年間俺は君に嘘をついてきました。さよなら。
プロポーズから約半年間、両親への挨拶から週末ごとの式場見学と、結婚への準備を着々と進めてきた、ななこと遥哉。しかし、式場契約の当日、遥哉は彼女の前から突然姿を消してしまう。残された手紙、元恋人の存在、登山ガイドの母。失踪後に知る彼の“真実”にななこは…。
信濃川日出雄先生がフィールにて連載していた作品になります。信濃川日出雄先生というと「Fine」が個人的に印象的で、そのイメージが強いのですが、まさか女性向けの作品を描くとは。先々レビューすることもないと思っていたので、その名前を見た時とても驚きました。本作「茜色のカイト」は、結婚前の男女の姿を描いた作品。プロポーズから半年、結婚式場を探しまわっていたある日、契約目前になり突如、彼がとある書き手紙を残し、忽然と姿を消してしまいます。なぜ彼が消えたのか、残されたメッセージの意味とは、そして自分はどうするべきなのか、一人残されたヒロインは、先の見えない中懸命に過去と、そして未来を模索していくことになります。
残されたメッセージは「2年間俺は君に嘘をついてきました。さよなら。」というもの。それまで突然姿を消してしまうような素振りは一切見せていなかったので、当然ヒロインは困惑します。また手紙と言っても、便せんに丁寧に綴ったようなものではなく、銀行封筒の余白欄に書かれたもので、本当に「思い立って即座に」というような感じ。そんな中、唯一のヒントとなるのは、契約しようとしていた結婚式場のプランナーで、相手役の元婚約相手だったという人。彼の過去を知るその人に少し嫉妬しつつも、現状と、そして少しずつ明らかになってくる彼の過去と背負っているものを受け入れ、改めて彼との未来について考えるようになっていきます。

思い返せば思い当たる節もある。ただ優しいだけではだめなのか、見て見ぬ振りをするのはダメなのか、嘘をつくのはダメなのか。。。相手に、自分に、様々な想いを巡らせる。
描こうとしているのは何なんだろう。結婚することとは、家族になることとは、ということか。そこに確かに救いはある。けれども相手役の心情が間接的にしか描かれることはないので、本当の意味での真実は闇の中。そういう意味ではどこかスッキリとしない感はあるのですが、結婚ってそもそもそういうものなのかな、という気もするのです。全て分かり合った上で結婚することなんて到底出来ないし、けれども相手のことを何も知らずに結婚することだってできない。その二つのライン内での若い男女の葛藤と行動が、この一冊の中に落とし込まれています。
より大きな枠での救いが訪れたのは間違いなくヒロインでしょうが、わかりやすく救われているのはむしろ相手役で、これを好意的に受け取れる女性読者ってどれだけいるのかなぁとちょっと思ったり。女性の包容力というか寛容というのは当然のことながら大事ではあるのですが、にしてもヒロイン任せな感が。相手役自身も、何かヒロインが抱えているものを少しでも背負えれば、ギブアンドテイクで本当にスッキリしたのですが、そこは1冊というボリュームでは描けないか。というわけで、よくあるフィールヤング作品とはちょっとテイストの異なった趣のある一冊となっております。気になる方は手に取ってみては。
【男性へのガイド】
→表向き女性向けですが、根本は男性向けのテイストが強いように個人的には感じました、はい。
【感想まとめ】
→双方の暗い部分を掘り下げるようなものにしたらバランス取れたかな、とは思うものの、現状十分読み応えのある内容。1巻完結でちょうどよい読みやすさ。
作品DATA
■著者:信濃川日出雄
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィール・ヤング
■全1巻
■価格:933円+税
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