
ほら
苑のうたをまとってる
■しがない役者、清武迪。本業はイマイチ。バイトに明け暮れ貧乏生活。そんな日々の中、最近何故か、頭の中で聴いたことのない歌が鳴っている。そしてアパートの隣の部屋には、高校時代の同級生だった日下苑が引っ越してきて…!?そして彼女によりそう謎の少女とは…。この世の片隅で鳴る、不思議な失恋歌。
「潔く柔く」(→レビュー)などを描かれているいくえみ綾先生のWebスピカでの連載作になります。本作の前は「いとしのニーナ」(→レビュー)を連載しており、結構久々の単行本です。表紙を見ると男性2人が仲よさそうにベンチに・・・ 。パッと見BL作品ですが、内容はBLではございませんのでご安心(ご注意?)を。
主人公は、売れない役者をやっている清武迪(すすむ)。エキストラやちょい役をこなす日々でなかなか芽が出ない中、頼りにしていた先輩が自殺か事故か、急死。あまりにも突然の出来事に驚いていると、今度は隣に高校の同級生だった女性・日下苑が越してくる。別に仲が良かったわけではない。けれども良く知っている。というのも彼女は、高校時代に親友だった高遠峻へ日々告白をする、ストーカーめいたファンだったのだ。日下は現在歌手をやって生活をしているとか。そして一緒にいるのは彼女の子供…?いや違う、どうやらその姿が見えているのは迪だけのようだ。これは一体!?何の具合か、目まぐるしく動き始めた彼の毎日は…!?

久々の再会。友人というわけではないが、長い時間会っていなかったこと、そして大人になったことで割と普通に話せる。彼女は歌手、そして主人公は売れない役者。どちらも似たような境遇にいる。
幽霊ものというとちょっと違うか。とりあえず最初に言っておくと、多分これ面白くなると思います。というのも本作、1巻にして既に2人の故人が重要人物として配置されることになり、要するに死と残された者の感情を描き出す類いのお話。これは、非常に評判の良かった「潔く柔く」などと同じで、たぶんこういうテーマであれば確実に“読める”作品に仕上げてくるだろうな、というワクワク感があります。

死した人物を映し出す媒介が物語によって異なってくるのですが、本作の場合はそれが"自分にしか見えない子供の霊(?)”だということ。
それぞれ別の意味で想いを強く持っていた、共通の知り合い(しかも故人)がいる男女が、偶然にも隣の部屋に。さてどうなる。共通の知り合いが生きていれば不変だったかもしれないその関係が、死という逃れようのない事実と、しばらくの断絶、そして人生の苦みを味わうことで全く新しい関係を作り上げるように。もしかしたら恋愛に発展するかもしれませんし…というか、してほしいですし。
けれどもタイトルから考えると、オチは違うのかしら。たぶんこれ、「トーチソング・トリロジー」から取っているのかな、と思います。ゲイネタもそこからなんでしょう、きっと。何はともあれ物語が転がりはじめた1巻。けれども目的地は明確でなく、逆に言えば好きに転がせる、その独特のユルさもまた魅力の一つ。どこに着いたって大丈夫、転がりはじめの道中で、既に充分面白い。さぁさぁ、楽しみな新作が登場してきましたよ。
【男性へのガイド】
→いくえみ綾作品がお好きであればまず間違いなく大丈夫。是非とも読んでみてください。
【感想まとめ】
→スピカ連載なので刊行ペースが遅いのがもどかしい…というくらいには楽しみです。別紙で連載中の「プリンシパル」(→レビュー)よりかは、こちらの方が俄然好みですかねー。良い意味で脱力しており、かといって押さえる所はちゃんと押さえている感じが。
■作者他作品レビュー
いくえみ綾「そろえてちょうだい?」
摩訶不思議な少年少女のワンダフルデイズ:いくえみ綾「爛爛」
作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:幻冬舎
■レーベル:Birz Comics スピカ
■掲載誌:スピカ
■既刊1巻
■価格:619円+税
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