
おぞましい
なんておぞましい世界だ…!!
■ある国に息づく残酷なしきたり。それは“影武者”として生きること…。
場末の芝居小屋で役者をしていた少年・ロバートは、王位継承権を持つ女王・エリザベスの影武者として声をかけられ、王宮へと入ることになった。“絶対行きて帰ってやる…”回り始めた運命の輪に、ロバートは飲み込まれてしまうのか?偽り、罠、憎しみ、欲望に満ちた人間関係を描く第1巻、登場。
「あめのちはれ」(→レビュー)や「壁の中の天使」(→レビュー)などを描いているびっけ先生のITANでの連載作になります。ITANでは「赤の世界」(→レビュー)を描き上げていますが、あちらはオムニバス形式のお話であったのに対し、こちらは長期連載。しかもかなり重厚感のある、読み応えのあるお話になっています。
物語の舞台となるのは、数百年前のヨーロッパを思わせるどこかの王国。この国では、王や王子を始めとして、この国のトップとなる人間に影武者を立てるしきたりがありました。現王が体調を崩す中、王の2番目の妻との間に生まれたエリザベスにも王位継承権が与えられ、彼女の影武者として白羽の矢が立てられたのが、主人公のロバート。

女装をしたロバートはこんな感じ。ちょっと気の強そうな女の子っぽい感じ。
男でありながら、化粧をした時に見ためはエリザベスそのものである彼は、病弱な弟の保護と引き換えに、王宮に入ることになります。常にエリザベスと行動を共にし、いざ彼女の身になにかあった場合は自らが女王として振る舞わなくてはいけない。そんな中、王がついに亡くなり、王位継承権を持つエリザベスの周りも俄に慌ただしく…。欲望、偽り、憎しみ…様々な汚い感情を笑顔の奥に隠しつつ、エリザベスの元に近寄ってくる人間達。おぞましい世界の中、ロバートは無事影武者として生き抜いて行く事ができるのか…というストーリー。
女王様の影武者にスポットを当てた物語。サダムフセインには影武者が十数人いたなんて話がありますが、やっぱりいるんでしょうかね。まずはなにより、女王の影武者を男が務めるという設定。影武者役は常に本物の傍にいないといけないので、自ずと接触時間は増えます。そうすると、恋愛展開が生まれる可能性も…。なんて、1巻時点ではそんな気持ちが生まれる様子もなく、ただひたすらに、一般人のロバートが見た・感じた王宮の姿というものが描かれていきます。王族の大変さや、彼らを取り巻く人間たちの汚さ。そして影武者制度を含めた様々なならわし。そこにうずまく様々な人間の様々な感情が、物語をより複雑にしています。

影武者としての出番は結構多い。本物に高いリスクが降りかかるような場合は、影武者が代役としてその場に行かされることもある。
主人公のロバートは場末の芝居小屋で育ったということもあり、誰でも簡単に信用してしまうような素直さの持ち主というわけではありません。洞察力が高く、警戒心も強い人間で、鋭い視点で王宮の人間達の心持ちを見つめて行きます。逆にエリザベスは、王族としての自覚も強くまた男に媚びるようなところもない一本立ちした女性。どちらもそれぞれ一人で生き抜ける強さがあり、擦れすぎてもいないし、また人の本質を見抜く力はあるようです。そんな二人が出会い、お互い支え合わざるを得ない状況になったとき、どのようなケミストリーを見せるのかこれから非常に楽しみ。もうね、良い人間なんて全然いないんですよ。それに王宮に根付く制度もなかなかハードなもので、さてこれらが絡み合ってどう物語が転がって行くのか、本当に全然想像もつかないのです。
1巻は舞台背景を説明するだけに終始するような形になってしまったのですが、それでも充分に面白く全く飽きはきませんでした。そしてこれから、更に面白くなってくるはず。影武者に待っているのはあまりにも悲しい運命なのですが、それにどのように抗っていくのか。2巻が早くも待ち遠しい、期待の1作が登場してきました。
【男性へのガイド】
→読み応えもありますし、変に女性向け感も出ていないので、これは読みやすいんじゃないかと思います。ITANはそもそも万人向けのように勝手に感じておるのですが。
【感想まとめ】
→面白かったです。そしてこれから一層面白くなるはず。様々な感情渦巻く複雑な物語を、こうもしっかりと整頓して読める作品に仕上げるというのは、なかなか出来る芸当じゃないと思うんですよ。2巻も楽しみ!
作品DATA
■著者:びっけ
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
■価格:560円+税
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