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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.08.26
1106185888.jpgヤマシタトモコ「ひばりの朝」(1)


あたしがわるいんです


■手島日波里、14歳。同じ年の子供より、肉感的な体つき。彼女を知れば、男はたいがい性的な感情を抱き、女はたいがい悪意の弾をこめる。彼女に劣情を抱いている男や、片想いをしている少年、劣等感を抱く女、そして彼女を貶めたい少女が、ひっそりと、かつエゴイスティックに語り出す。彼女にまつわる心理展覧図はどこまでも繁るが、真実の正体は誰が知るのか…。

 「ドントクライガール」(→レビュー)などを描かれているヤマシタトモコ先生のフィールヤングでの連載になります。フィーヤンでは「ミラーボールフラッシングマジック」(→レビュー)や「HER」(→レビュー)などを描いておられましたが、本作はそのどちらとも違ったテイストの作品に仕上っています。「HER」なんかは近いものがあるかもしれませんが、こちらの方が鈍重で後ろ暗くて重ためな雰囲気。なんていうか、見てはいけないものを目にしているような、感覚があります。帯にある「怪作」という言葉は、まさにこの作品を形容するのにぴったり。正直この作品のすごさを伝えられる自信がないのですが、ご紹介したいと思います。
 
 物語のメインパーソンとなるのは、タイトルにもなっている“ひばり”。本名は手島日波里と言い、14歳にしてはあまりにも豊満な“女性”としての体つき・雰囲気をしています。そんな彼女を前にして、男は誰しもが劣情を抱き、女性は誰しもが劣等感や悪意を抱く。そんな象徴的な存在として、彼女は描かれます。物語は、そんな彼女に少なからず関わっている、友達やクラスメイト、親戚などの視点で、彼ら・彼女らが抱く決してキレイとは言えない感情が描かれていきます。


ひばりの朝1−1
もうみんな黒いです。イノセンスさの塊みたいな人はおらず、多かれ少なかれ、汚い感情や考えを抱いており、それが見え隠れする形に。なかなか読むのには元気が要ります。


 妙に大人っぽい体つきで、しかも自己主張をあまりしない女の子という設定、もう絶妙というか、あざといというか。これがもし高校生だったりしたら、完全に「女性」「女」なわけですよ。そういう体つきだからといって、別に垢抜けさせない所とか、もう、もう!確かにそんな子を前にしたら、男共は少なからず下心を交えた目で見るでしょうし。そりゃあもうそれは仕方のないことでして。そしてそんな彼女を相手にして、そんなことを思う自分に嫌悪感を抱いたり、思わぬ罪悪感を抱いたり。この描き方がなんとも痛々しいというか、目を向けたくないものに無理矢理対峙させられている感がすごいんです。
 
 一方女性は劣等感や嫌な気持ちを彼女に抱く事が多いです。私は男性ですので、当たり前ですが「あーあるある」なんて感想にはならないわけですが、やっぱりこういう子を前にするとそういう感情に苛まれるのでしょうか。多分作者が女性である分、描かれている感情は女性サイドの方がより痛々しく、汚いものだという直感はあるのですが、いかがでしょう。
 
 どのお話を取っても、キレイな部分というのはなかなかなく、読み応えはすごくとも、決して読後感の良い作品ではありません。それも含めて印象的というか。物語はひばりと対峙して動いていくわけですが、彼女と対峙することで自分自身というものがよりハッキリと浮き彫りになり、むしろ物語としては自分自身と向き合って行くような構造のお話になっています。だからこそ、ひばりは引っ込みがちで大人しく、登場人物の誰とも深く交わってこない。というか、交わっちゃいけないのか。
 
 最後はひばり自身の想いが描かれ1巻は終了。おおよそ登場人物たちの視点を一回りした形ですが、2巻で2周目があるのか、それとも別の人物が描かれるのか。物語のタイプ的に、登場人物の像を掘り下げてこそという感じもするので、2周目であることを所望します。また段々と、ひばり自身の問題に周囲の人物が巻き込まれて行く形になっており、物語全体としての動きもしっかり確保。これは続きが楽しみです。
 
ひばりの朝1−2
登場人物の中で一番印象に残ったのは、2話目ですかね。
非常にボーイッシュな女性がメインになるのですが、シンプルにひばりと自分を比べて、コンプレックスを肥大させていく。わかりやすいけれど、非常にパンチのある物語でした。しかも救いなしで、ズバンと劣等感を自覚させておしまいっていうこの後味の悪さ。素晴らしい。その他では、彼女の学校の先生のお話ももし続きがあったりしたら、気になるな、という。とにもかくにも、要注目の新作が登場しましたよ。


【男性へのガイド】
→正直これはわからんです。ほんとに。うーん。
【感想まとめ】
→インパクトはあるんですが、この作品のどこがすごいのかってのが掴み切れていないのが、歯がゆいというか気持ち悪いというか。ただ必ず話題になってくるであろう作品だとは思います。それぐらい、なんかわからないけどすごかった。実際続きが読みたくて仕方ないし。


作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:祥伝社
■レーベル:コミックフィール
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:648円+税


■購入する→Amazon

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