
11月22日
いい夫婦の日に
わたし達は
離婚をする。
■高校生活最初の春、まったくの赤の他人だった“佐古野”郁美と、“佐古野”灯馬。同じ苗字で同じクラス、それだけの偶然だったはずだが、気づけばクラス中から「夫婦」と呼ばれるようになり…。それは、夫婦という関係性に恋をしたふたりの、二年と少しの、青春の日々…。
以前月次の雑記でもご紹介したことのある、「青春離婚」が単行本化されました。原作は人気ライトノベル作家の紅玉いづきさん、そしてコミカライズ担当はこれまた人気Web漫画家のHEROさん。そんな二人がタッグを組んで、送り出したのが本作になります。
物語は、とあるクラスメイト二人の青春の日々を綴ったもの。ヒロインの佐古野郁美は、人見知りで俯きがちな女の子。そんな彼女は、全く同じ苗字の男の子、佐古野灯馬と同じクラスになります。親戚でもなんでもない、全くの偶然。けれども物珍しい苗字が一緒ということから、いつしか二人はセットで“夫婦”と呼ばれるように。苗字が同じということは、席も近いし、日直も一緒。そのたびに“夫婦”と呼ばれ、嫌がっていた郁美さんですが、灯馬さんはなんとも上手に彼らをあしらいます。「下手に抵抗すると逆効果」と、“夫婦”を受け入れることにした二人。そんなある日、郁美さんは灯馬さんにある頼み事をされるのですが…というお話。

まず特徴的なのは、そのコマ構成。均等に区切られた4コマが1ページセットになっていて、それが延々続きます。これをWebの方で読むと、このコマがずーっと続く感じで、紅玉いづきさん曰く「画像を全体表示すると、まるでポッキー」という。読む際はどんどんと下にスクロールしていくのですが、まだサイトの方で読めますので、気になる方は是非読んでみてください。また、掲載時そのままに、全編カラーとなっています。大人しい二人の、静かな関係を描くので、カラーを感じさせない地味さがあるのですが(笑)青春の日々なんだから、白黒よりもカラーの方がいいですよね。
さて、物語は、灯馬さんのスマホアプリ制作をヒロインの郁美さんが手伝うことで、関係が育まれるというもの。スマホアプリだなんて、なんだかとても現代的。郁美さん自身はスマホアプリのことはあまりわからないので、そんなものを作れる彼を「すごい」と思い、アップデートされるアプリを楽しみ、そしてこの二人だけの秘密と“夫婦”という関係に自分の居場所を見出して行くという、そんな物語視点で物語は描かれていきます。“夫婦”という表向きの盾があることで、はじめて男の子を名前で呼んだり、はじめて男の子と一緒に帰ったり、はじめて男の子とメールをしたり…青春時代ならではのイベントを、夫婦という名目で経験していく、そんなちょっと変わった関係が、愛おしくてもどかしい。

シンプルなかき込みなのですが、そのシンプルさ故に表情が浮き立ちやすいのか、最初は全く人と離せず、表情も歪みがちだった郁美さんが、だんだんと笑顔を増やしていく様子がありありと見てとれます。だんだんと豊かになっていく彼女の表情を見る度、ニヤニヤが増えるというか。
個人的なハイライトはバレンタインデーですかねぇ。灯馬さんのキモチの伝え方はいつも通りで、けどすごく勇気が要っただろうなぁとか、照れつつ渡す郁美さんがすごくかわいいなぁ、とか。すごい幸せな気分になりましたとも。
実に2年半という高校生活の殆どをこの1冊に収めているのですが、詰め込み感は全くありません。話の切れ目がわかりづらいので、むしろそんなに時間が流れてたのか、と感じるくらい。また原作付きで、あの紅玉いづきさんということで、話の節々で挟まれる言葉が本当に綺麗で心に残ります。二人の“夫婦”という関係に変化をもたらす障壁も、その後の展開も実に美しく、本当に黄金タッグだなぁと思わされました。ばっちり感動できましたよ!これだけと言わず、違う作品も見てみたいですね。本作、もちろんオススメです。
【男性へのガイド】
→元々レーベルとして、女性向けかよくわからんところがあるので、それを論じるのは。普通に男性でも楽しめるかと思います。是非ご一読を。
【感想まとめ】
→よかったです。感動しました。両作者さんの作品は読んだことがあったのですが、合わさるとこうなるんですね、と驚きと喜びが。オススメです。
作品DATA
■著者:紅玉いづき/HERO
■出版社:星海社
■レーベル:星海社COMICS
■掲載誌:星海社ウェブサイト「最前線」
■全1巻
■価格:933円+税
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