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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.10.26
1106189710.jpg東村アキコ「かくかくしかじか」(1)


怒らないでね
先生



■自分は本気で絵が上手い。宮崎の片田舎で本気でうぬぼれていた林明子(高3)の人生プランは、美大経由売れっ子漫画家行き。美大受験のために通うことにした絵画教室で彼女が出会ったのは、竹刀を持った怖いおっさん・日高先生。未来を夢見たあの頃を描く、ドラマチックストーリー。

 東村アキコ先生のCocohana連載作でございます。Cocohanaの前身はコーラス…ということで、「ママはテンパリスト」(→レビュー)と一緒。前作では爆笑の子育て模様を描いたエッセイマンガでしたが、本作も自らの高校時代の思い出を綴った、自伝漫画になっています。前作のようなライトな感じはありませんが、それでも笑いの成分はしっかり多めで、なんと言っても読みやすい。今作も面白いお話ですよ!
 
 描かれるのは、東村アキコ先生の高校時代。しかも受験期です。将来は美大に行って、その後は漫画家…という青写真とも言えないような妄想を繰り広げていた当時の東村アキコ(本名:林明子)は、宮崎という田舎でその自信を肥大化させておりました。そんな中、同じく美大志望の友人から誘われ、地元のとある絵画教室に通うことに。そこで待っていたのは、ジャージに竹刀で、移動はもっぱらスクーターという、絵とは結びつかないようなおっさん・日高先生。しかも指導は超絶スパルタで、竹刀で小突かれる、殴られるなんてことはしょっちゅう。宮崎の温かな土地で、生温く育ってきた明子は…というストーリー。
 

かくかくしかじか
自信過剰なアホヒロインと、加減を知らないスパルタじじいの一騎打ち。この二人が起こすケミストリーがとにかく面白いのです。


 自伝漫画ということで、エッセイコミックとは少し毛色が異なります。序盤は自信が肥大化してアホなことしか考えていない作者自身の姿が描かれ、さらに豪快な絵画教師が現れるという流れから「あ、これ『ママはテンパリスト』と同じ系統だ」なんて思わせながら、所々でシリアスなシーンが挟まれ、コンセプトが全く異なっていることがわかります。
 

かくかくしかじか1−2
 その最たるものが、各話の締めくくりに語られる、先生へ宛てたメッセージ。その内容は明らかに、恩師・日高先生が他界していることを連想させるもので、物語に少しの寂しさと切なさの影を落とします。全力で笑いに振り切らないし、かといって過去を懐かしみ過ぎてしっとりしすぎることもない。これを普通の人がやるとどっちつかずになってしまうのでしょうが、そこはさすが東村アキコということで、まぁなんとも絶妙なバランス感で心に迫ってくるんです。

 面白い要素は色々あるんですが、登場人物それぞれがしっかりキャラが立ってて、笑いを生み出す力を持っているというか。特に自分をアホに描くのが上手いなぁ、と思います。例えば「全然勉強していなかったけれど、裏技的な勉強法(対策?)を習得したら、2か月でセンター8割取れた」なんて、割と嫌みなエピソードになりかねないと思うのですが、全くそんな感じにさせないっていう。それはきっと、自分が出来たこと以上に、自分の恥ずかしかった部分をさらけ出しているからなんじゃないかな、と思ったり。
 
 1巻は未だ受験途中という段階で、恐らく恩師との日々を描いたものであるならば、あと1巻くらいで完結のような気がします(ほんと見当ついていないですが)。都度挟まれる恩師へのメッセージが、最後どのような形でつながってくるのか。今から続きが気になって仕方ありません。もちろんおすすめですよ。東村アキコファンも、そうでない方も是非手に取ってみてください。あーでもやっぱり作者さんのファンの方が楽しめるのかな。ルーツがわかりますし、例えば異様に筆が早いのも、ここで鍛えられたから…なんて安易な想像を巡らせたりして楽しめますし。


【男性へのガイド】
→東村作品はもちろん男女共に読みやすいはず。表紙も手に取りやすいデザイン、サイズかと思います。
【感想まとめ】
→これは面白かった。こういう魅せ方も出来るんだと、感動すると共にとても驚かされました。もちろんオススメでございます。


作品DATA
■著者:東村アキコ
■出版社:集英社
■レーベル:不明
■掲載誌:Cocohana
■既刊1巻
■価格:743円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「cocohana」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

ひまわりっ 〜健一レジェンド〜と合わせて読むとまたさらに面白いと思います。あれの方がフィクションの部分が多いですけどこの話の前後の部分を埋める作者のエピソードがいろいろ出てくるので。
From: ~名もなきお * 2012/10/28 02:49 * URL * [Edit] *  top↑

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。