
怒らないでね
先生
■自分は本気で絵が上手い。宮崎の片田舎で本気でうぬぼれていた林明子(高3)の人生プランは、美大経由売れっ子漫画家行き。美大受験のために通うことにした絵画教室で彼女が出会ったのは、竹刀を持った怖いおっさん・日高先生。未来を夢見たあの頃を描く、ドラマチックストーリー。
東村アキコ先生のCocohana連載作でございます。Cocohanaの前身はコーラス…ということで、「ママはテンパリスト」(→レビュー)と一緒。前作では爆笑の子育て模様を描いたエッセイマンガでしたが、本作も自らの高校時代の思い出を綴った、自伝漫画になっています。前作のようなライトな感じはありませんが、それでも笑いの成分はしっかり多めで、なんと言っても読みやすい。今作も面白いお話ですよ!
描かれるのは、東村アキコ先生の高校時代。しかも受験期です。将来は美大に行って、その後は漫画家…という青写真とも言えないような妄想を繰り広げていた当時の東村アキコ(本名:林明子)は、宮崎という田舎でその自信を肥大化させておりました。そんな中、同じく美大志望の友人から誘われ、地元のとある絵画教室に通うことに。そこで待っていたのは、ジャージに竹刀で、移動はもっぱらスクーターという、絵とは結びつかないようなおっさん・日高先生。しかも指導は超絶スパルタで、竹刀で小突かれる、殴られるなんてことはしょっちゅう。宮崎の温かな土地で、生温く育ってきた明子は…というストーリー。

自信過剰なアホヒロインと、加減を知らないスパルタじじいの一騎打ち。この二人が起こすケミストリーがとにかく面白いのです。
自伝漫画ということで、エッセイコミックとは少し毛色が異なります。序盤は自信が肥大化してアホなことしか考えていない作者自身の姿が描かれ、さらに豪快な絵画教師が現れるという流れから「あ、これ『ママはテンパリスト』と同じ系統だ」なんて思わせながら、所々でシリアスなシーンが挟まれ、コンセプトが全く異なっていることがわかります。

その最たるものが、各話の締めくくりに語られる、先生へ宛てたメッセージ。その内容は明らかに、恩師・日高先生が他界していることを連想させるもので、物語に少しの寂しさと切なさの影を落とします。全力で笑いに振り切らないし、かといって過去を懐かしみ過ぎてしっとりしすぎることもない。これを普通の人がやるとどっちつかずになってしまうのでしょうが、そこはさすが東村アキコということで、まぁなんとも絶妙なバランス感で心に迫ってくるんです。
面白い要素は色々あるんですが、登場人物それぞれがしっかりキャラが立ってて、笑いを生み出す力を持っているというか。特に自分をアホに描くのが上手いなぁ、と思います。例えば「全然勉強していなかったけれど、裏技的な勉強法(対策?)を習得したら、2か月でセンター8割取れた」なんて、割と嫌みなエピソードになりかねないと思うのですが、全くそんな感じにさせないっていう。それはきっと、自分が出来たこと以上に、自分の恥ずかしかった部分をさらけ出しているからなんじゃないかな、と思ったり。
1巻は未だ受験途中という段階で、恐らく恩師との日々を描いたものであるならば、あと1巻くらいで完結のような気がします(ほんと見当ついていないですが)。都度挟まれる恩師へのメッセージが、最後どのような形でつながってくるのか。今から続きが気になって仕方ありません。もちろんおすすめですよ。東村アキコファンも、そうでない方も是非手に取ってみてください。あーでもやっぱり作者さんのファンの方が楽しめるのかな。ルーツがわかりますし、例えば異様に筆が早いのも、ここで鍛えられたから…なんて安易な想像を巡らせたりして楽しめますし。
【男性へのガイド】
→東村作品はもちろん男女共に読みやすいはず。表紙も手に取りやすいデザイン、サイズかと思います。
【感想まとめ】
→これは面白かった。こういう魅せ方も出来るんだと、感動すると共にとても驚かされました。もちろんオススメでございます。
作品DATA
■著者:東村アキコ
■出版社:集英社
■レーベル:不明
■掲載誌:Cocohana
■既刊1巻
■価格:743円+税
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