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Tag [新作レビュー] 2012.11.04
1106206179.jpgKUJIRA「てのひらのパン」(1)



止まっていた
心が
息を吹き返す



■こころとおなかを満たす、たったひとつのパン。
 宮沢胡奈は幼少の頃に絵本で読んだパンを忘れられず、そのまま大きくなってパン職人に。現在は商店街で自分の店を持ち、一人で切り盛りしている。そんなある日、いつも通り店を開けようとすると、店の前に一人の男が行き倒れていた。お金と記憶がないという彼を、なぜか流れで家に上げてしまった胡奈は…
 
 「ワールドエンドゲーム」(→レビュー)や「ちよこチョコレート」(→レビュー)などを描かれている、KUJIRA先生のスピカ連載作になります。KUJIRA先生にとっては初めての巻数付きとのこと。おめでとうございます。1冊の絵本とパン屋で繰り広げる、再生の物語です。
 
 今回のヒロインはパン職人。しかも、ずっと幼い頃に夢見たパンを追いかけている、健気なパン屋さんです。物語の舞台は、そんな彼女・宮沢胡奈が切り盛りする商店街のパン屋さん。ある日店の前に一人の男が倒れており、なぜか助ける流れになると、お金と記憶が無いと言い出す。そんな危ない人は置いておけないと、すぐに追い返した胡奈ですが、翌日再び彼女の前に。実は記憶がないのは嘘で忘れ物があるだけと言う彼は、忘れ物がみつかるまで、パン屋に置いてくれないかと頼むのですが…というお話。


てのひらのパン
 ヒロインの胡奈は幼い頃に読んだ絵本のパンを今も追い求めてパンを作る日々。仲の良かった姉を亡くし、姉の子供と一緒に暮らしています。淡々とパンを作る平穏な日々ですが、そこにはどこかぽっかりと穴があいたような気持と、ひとつの後悔が。そしてパン職人見習いとして居候することになった例の男・黒川は、わすれもの=忘れた感情・想いを探す毎日。どちらもどこか暗い感情を抱えており、その姿は、物語の冒頭で描かれる絵本の兄弟の姿に重なります。似た想いを抱えた二人が物語を作って行きます。
 
 男女二人がひとつ屋根の下ということで、恋愛に発展しそうな匂いがプンプンですが、今のところそんな気配はありません。というのも、一緒に暮らしている、姉の息子(甥っ子)がいるから。また話は重なれど、日にちはさほど流れずで、時間的にそこまでに至らないというのもあるかもしれません。最終的にはそういうところに落ちてくるのかな。
 
 同時収録の読切りもパンをモチーフにしたお話。こちらが原点になっている節もあるのかもしれません。「ちよこチョコレート」もそうでしたが、KUJIRA先生は過去の思い出と共に食べ物をモチーフに物語を展開させるのがお上手。本作はパンということで若干地味な印象はありますが、ゆっくりスロースタートで温かい物語になってくる手応えは充分。絵本はただただ切なさを残した結末と相成るのですが、果たして本作の結末やいかに。


【男性へのガイド】
→こういう作品って男女共にどうなんだろう。温かみのある人間ドラマというか、だからこそ両方行ける内容だとは思います。
【感想まとめ】
→温かい疑似家族もの。正直地味な感はありますが、KUJIRA先生だから最後はきっちり感動的にまとめてくるだろうという予感もしっかり。もちろん、KUJIRA先生のファンはしっかりチェックしてくださいね!


作品DATA
■著者:KUIJIRA
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:COMICSスピカ
■掲載誌:スピカ
■既刊1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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