
明日はどんな話をしよう
■生きて防衛するだけが任務ではない。死してなお、聖都を護る供物となる…。
ここは古代城塞都市エルドラド。この都市とは名ばかりの廃墟の中心には、「護るべきもの」として位置づけられた得体の知れない巨大な塔がそびえ立っている。世界政府の軍人と成り、聖都を護ることになった第56部隊に所属することになった僕等は、今日この戦場で出会った。出ることも許されない此処を何故守っているのか誰も知らない。だけど僕等は戦い続ける…
如月芳規先生の新作でございます。スカイブルーが鮮やかな表紙で、書店でとても目立っていました。本作ですが、とある廃墟都市を護る若い兵士達の生き様を描いた物語になっています。舞台となるのは古代城塞都市・エルドラド。人は住んではおらず、街の中心に“護るべきもの”として政府に位置づけられている塔・ジグラッドが立っています。その中に何があるかは明らかにされてはいないものの、反政府組織はその塔の“聖櫃”を破壊しに突撃してくるため、政府軍は昼夜問わずジグラッドを命を賭して守り抜きます。本作で描かれるのは、そんなエルドラドの政府軍の一隊である、第56部隊に所属することになった若い兵士達。目的も分からないまま、命を捨ててまで任務に当たる彼らの戦いの様子が描かれていきます。

エルドラドの様子。塔を囲むように、様々な壁がそびえ立つ。兵士は塔を護るため、命懸けで日々の任務にあたる。
男女の小隊が大きな壁に囲まれた都市で侵入者と戦う…というシチュエーションから、なんとなく「進撃の巨人」チックなイメージ。とはいえ巨人のようなわかりやすく強大な敵がいるわけではなく、また兵隊達に目指すべき目的のようなものも掲げられていないため、もっと空気は淡々/殺伐としており、描こうとしているものも恐らく全然違うのかと思われます。
そこにあるのは兵士たちを取り巻く不条理さとやるせなさ。塔を護る壁は複数存在するのですが、塔に最も近い壁は兵士達の亡骸を埋葬することで育つと言われており、塔と護るだけでなく、最終的には死んで壁の供物となることまでが任務になります。そんな状況であるにも関わらず、兵士たちは恐怖に怯えることはあまりない様子。というのも、新兵は置かれている状況に現実感を持てず、一方で中堅・ベテラン達はその状況を受け入れているのか諦めているのか、淡々と任務を遂行するという状況。どこか異様ではあるのですが、実際の戦場もこのような感じなのかな、という気もして、この静けさが妙にリアルに感じられたりするのです。

敵軍の襲撃は日常茶飯事。常に戦いはあり、死と隣り合わせ。
本作の特徴を一つ述べるのならば、物語の視点となる主人公が度々変わる所にあります。そしてその視点の切り替えのきっかけとなるのは、他でもない主人公の“死”。あまりに簡単に主人公が死に、別の人物の視点に切り替わるので、ちょっと驚く方もいるかもしれません。こういった視点の切り替えは、何か軸となる大きな物語がないといけないのですが、本作の場合はベールに包まれている塔の正体というよりは、唯一第56部隊で任務を続ける一人の女性兵士の存在がその役目を果たします。
物語がこの先、不条理さの中を生きる兵士達のミクロな物語に終始するのか、はたまた“護るべきもの”の正体がわかり、現状打破を目指す大きなマクロな物語へと移って行くのか、今はまだわかりません。後者の方が個人的には好みでしょうか。何はともあれ先の女性兵士が鍵を握っていそうで、彼女の行動如何で物語は如何様にも転がって行きそう。1巻時点でこれという決めてはありませんが、少しでも興味を持たれた方は手に取ってみた方がよいかもしれません。
【男性へのガイド】
→これが大きな物語へと転がって行くのであれば、男性好みになっていくのかな、とは思います。
【感想まとめ】
→1巻は準備段階という感じがあります。やっぱり絵はキレイで、それだけで読み応えがありますね。個人的にはちょっと続きに興味があるので、追いかけると思います。
作品DATA
■著者:如月芳規
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ZERO-SUM
■既刊1巻
■価格:552円+税
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