作品紹介→16歳、10年後からの手紙がつなぐキセキ:高野苺「orange」1巻
高野苺「orange」(2)
翔の心を救って欲しい
■2巻発売しました。
「翔がいない未来」を変えようと、手紙の指示を実行していく菜穂。しかし、未来と現在は別世界(パラレルワールド)かもしれないと知ります。さらに手紙と現実の出来事に食い違いが生じて来て…。希望がなければ絶望もなかった。だからこの絶望は、希望への通過点…
〜青春しまっくってます〜
2巻です。主人公は一人でお相手も翔のみと、恋愛の主軸は決まってはいるものの、脇役達の想いもそこかしこに落とし込まれる本作は青春群像にも近いものがありますよね。そのため眩しい青春模様に目が痛くなる時があるのですが、特に2巻は文化祭まっただ中であったためか、青春汁が分泌されまくりでございました。私の故郷が舞台になっているためか、単純に「青春模様」として受け取るのではなく、なんとなく懐かしさのようなものを感じてしまって、余計に印象に残ってます。地域は全然違うものの、まるで自分の母校で繰り広げられているような錯覚に(笑)
〜明らかになる世界観と一つの事実〜
さて、本作は「未来からの手紙」というSF的要素が落とし込まれているわけですが、その世界を描き出す上での前提条件が2巻にて明らかになりました。前提条件というよりは、世界観と言った方が近いかもしれません。
手紙の指示を実行することによって、段々と手紙の内容と異なった出来事が起こるように。これによって懸念されるのは、未来からの手紙によって、現在を変えてしまうと、未来に大きく影響を与えてしまうという「タイムパラドックス」の発生です。しかしこれは、ある考え方によって解決することになります。それが、「パラレルワールド」。
タイムパラドックスが起きうる世界なのか、それともパラレルワールドなのか…。この事に対して菜穂は、過去を変えても一向に変わることのない手紙の内容を見て、パラレルワールドである可能性が高いと結論づけます。そして生まれるのは、一つの罪悪感…

指示を実行して幸せになるのは、未来の自分ではなく今の自分だけ
当然思うことです。自分だけが良い思いをして、未来の自分はそれでもなお悲しみに暮れる。差出人である自分の未来は変わらず、そのまま後悔を引きずり続けるのです。しかしこの想いは、他でもない翔の言葉によって、菜穂の行動を後押しする力へと変わります

過去が変えられなくても
心は軽くなるかもしれない
後悔を一生背負っていくよりずっといい
これは翔自身の想いを吐き出したものであるのですが、同時に菜穂の悩みに直撃する言葉でもありました。これにより、「指示の実行=自分のためだけの行動」という構図が、「指示の実行=今の自分と、未来の自分のための行動」へと変わり、より強い想いで行動できるように。パラレルワールドである=未来の自分は別世界の人間である、と捉えることができたことで、1人分の想いが実質2人分の想いに変わったのです。他者からの期待というのは強い動機づけになりますし、物語が進むべき方向をしっかりと定めることができたという意味でも、このシーンは非常に重要なポイントだったんじゃないかなぁ、と振り返って思います。
〜指示通りのことをしているだけでは足りないかもしれない〜
さて、斯くして前向きに指示に従うことになった菜穂でしたが、物語は中盤から後半に差し掛かった辺りで、またひとつ大きく転換することになります。

翔の事故は自殺であった
元々明らかにされていたのは、彼が事故で死んでしまったということ。そのため菜穂は、事故を防げればOKと捉えていたようですが、そんな簡単にはいかないのが物語の常。翔は思い悩んだ末に自ら命を絶ったのでした。これまでの未来からの細やかな指示の意味が、ここでやっと明らかになるのです。
けれどもこれによって、一つ懸念が出てくることに。それは、「指示通りに行動していれば、翔を絶対に救えるのか」ということ。ここまで未来から指示が来ているものは、未来の菜穂の想いが積み重なった乱暴な言葉で言うと「たられば」にすぎず、実際に行動を起こせば大丈夫であるという確証はどこにもありません。翔の後悔が菜穂が思う以上に根深いものであれば、結果的に自殺という結末は変えることができないのです。手紙の記述と差異が出始めている部分も含め、菜穂は自分の考えと想いでもって、翔に対して行動を起こして行かなくてはなりません。これ以降の菜穂の行動は、今まで以上に自分の想いが反映されたものであるはずで、度々感動を呼びそうな予感がしています。
1巻ではどちらかというとツールとしての側面が強かった未来からの手紙が、最終的には未来の自分の想いや後悔を伝えるためだけのものとしての役割が強くなってくるあたり、物語を転がす中での変容のさせ具合が本当に上手いな、と思います。この手の作品では、押し並べてそういうものなのかもしれませんが…。
〜3巻で完結予定だそうです〜
さて、本作ですが表紙織り込みの作者さんコメントにて「3巻で完結予定」との言葉が書かれていました。個人的には、だらだら長く続けるよりも、早い段階から終わりを見定めていて、きっちりまとめる作品の方が良作が多いという持論を持っているので、この宣言は嬉しいことなのですが、同時に「もっと長く読んでみたかったなぁ」という想いも。
2巻ラストはものすごい切り方をしており、正直ここまで読んで続き読まない人がいるのか、と感じるレベルでした。キーとなるのは、誰がどう考えても須和。否が応でも、3巻では須和の行動に注目することになりそうです。しかしこれ、もし須和の放った言葉が本当だとしたら、菜穂なんかよりもよっぽど、選択する未来への想いは重いのではないでしょうか。あああ、もう早く続きが読みたい!
■購入する→Amazon

翔の心を救って欲しい
■2巻発売しました。
「翔がいない未来」を変えようと、手紙の指示を実行していく菜穂。しかし、未来と現在は別世界(パラレルワールド)かもしれないと知ります。さらに手紙と現実の出来事に食い違いが生じて来て…。希望がなければ絶望もなかった。だからこの絶望は、希望への通過点…
〜青春しまっくってます〜
2巻です。主人公は一人でお相手も翔のみと、恋愛の主軸は決まってはいるものの、脇役達の想いもそこかしこに落とし込まれる本作は青春群像にも近いものがありますよね。そのため眩しい青春模様に目が痛くなる時があるのですが、特に2巻は文化祭まっただ中であったためか、青春汁が分泌されまくりでございました。私の故郷が舞台になっているためか、単純に「青春模様」として受け取るのではなく、なんとなく懐かしさのようなものを感じてしまって、余計に印象に残ってます。地域は全然違うものの、まるで自分の母校で繰り広げられているような錯覚に(笑)
〜明らかになる世界観と一つの事実〜
さて、本作は「未来からの手紙」というSF的要素が落とし込まれているわけですが、その世界を描き出す上での前提条件が2巻にて明らかになりました。前提条件というよりは、世界観と言った方が近いかもしれません。
手紙の指示を実行することによって、段々と手紙の内容と異なった出来事が起こるように。これによって懸念されるのは、未来からの手紙によって、現在を変えてしまうと、未来に大きく影響を与えてしまうという「タイムパラドックス」の発生です。しかしこれは、ある考え方によって解決することになります。それが、「パラレルワールド」。
パラレルワールドで過去を変えても、それは自分とは別の時間軸を生み出しただけで、自分の世界には全く影響がない。パラレルワールドでは、自分のいる世界の過去を変えることができないのです。よって矛盾も生じることがありません。
タイムパラドックスが起きうる世界なのか、それともパラレルワールドなのか…。この事に対して菜穂は、過去を変えても一向に変わることのない手紙の内容を見て、パラレルワールドである可能性が高いと結論づけます。そして生まれるのは、一つの罪悪感…

指示を実行して幸せになるのは、未来の自分ではなく今の自分だけ
当然思うことです。自分だけが良い思いをして、未来の自分はそれでもなお悲しみに暮れる。差出人である自分の未来は変わらず、そのまま後悔を引きずり続けるのです。しかしこの想いは、他でもない翔の言葉によって、菜穂の行動を後押しする力へと変わります

過去が変えられなくても
心は軽くなるかもしれない
後悔を一生背負っていくよりずっといい
これは翔自身の想いを吐き出したものであるのですが、同時に菜穂の悩みに直撃する言葉でもありました。これにより、「指示の実行=自分のためだけの行動」という構図が、「指示の実行=今の自分と、未来の自分のための行動」へと変わり、より強い想いで行動できるように。パラレルワールドである=未来の自分は別世界の人間である、と捉えることができたことで、1人分の想いが実質2人分の想いに変わったのです。他者からの期待というのは強い動機づけになりますし、物語が進むべき方向をしっかりと定めることができたという意味でも、このシーンは非常に重要なポイントだったんじゃないかなぁ、と振り返って思います。
〜指示通りのことをしているだけでは足りないかもしれない〜
さて、斯くして前向きに指示に従うことになった菜穂でしたが、物語は中盤から後半に差し掛かった辺りで、またひとつ大きく転換することになります。

翔の事故は自殺であった
元々明らかにされていたのは、彼が事故で死んでしまったということ。そのため菜穂は、事故を防げればOKと捉えていたようですが、そんな簡単にはいかないのが物語の常。翔は思い悩んだ末に自ら命を絶ったのでした。これまでの未来からの細やかな指示の意味が、ここでやっと明らかになるのです。
けれどもこれによって、一つ懸念が出てくることに。それは、「指示通りに行動していれば、翔を絶対に救えるのか」ということ。ここまで未来から指示が来ているものは、未来の菜穂の想いが積み重なった乱暴な言葉で言うと「たられば」にすぎず、実際に行動を起こせば大丈夫であるという確証はどこにもありません。翔の後悔が菜穂が思う以上に根深いものであれば、結果的に自殺という結末は変えることができないのです。手紙の記述と差異が出始めている部分も含め、菜穂は自分の考えと想いでもって、翔に対して行動を起こして行かなくてはなりません。これ以降の菜穂の行動は、今まで以上に自分の想いが反映されたものであるはずで、度々感動を呼びそうな予感がしています。
1巻ではどちらかというとツールとしての側面が強かった未来からの手紙が、最終的には未来の自分の想いや後悔を伝えるためだけのものとしての役割が強くなってくるあたり、物語を転がす中での変容のさせ具合が本当に上手いな、と思います。この手の作品では、押し並べてそういうものなのかもしれませんが…。
〜3巻で完結予定だそうです〜
さて、本作ですが表紙織り込みの作者さんコメントにて「3巻で完結予定」との言葉が書かれていました。個人的には、だらだら長く続けるよりも、早い段階から終わりを見定めていて、きっちりまとめる作品の方が良作が多いという持論を持っているので、この宣言は嬉しいことなのですが、同時に「もっと長く読んでみたかったなぁ」という想いも。
2巻ラストはものすごい切り方をしており、正直ここまで読んで続き読まない人がいるのか、と感じるレベルでした。キーとなるのは、誰がどう考えても須和。否が応でも、3巻では須和の行動に注目することになりそうです。しかしこれ、もし須和の放った言葉が本当だとしたら、菜穂なんかよりもよっぽど、選択する未来への想いは重いのではないでしょうか。あああ、もう早く続きが読みたい!
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