
私の幸福は
梅の香りと
共にある
■読切り5編を収録。それでは表題作をご紹介。
所在なく夜の町に佇む少女・ゆえに声をかけたのは、ごく平凡な公務員・古畑。けれど古畑と過ごす穏やかな時間は、ゆえにとってかけがえのないものとなっていった…。「私、古畑さんと、どうなりたいんだろう…」
幸田真希先生の短編集になります。幸田真希先生というと「花帰葬」のコミカライズをご担当されていたのを知っているのですが、オリジナル作品読むのはこれが初めて。各話にこれといったつながりはなく、単発で発表していた作品を一冊にまとめたものだと思われます。それでは表題作以外の収録作を、少しずつご紹介しましょう。
歳上・巨乳・女王様タイプを理想の女性とする男子に、あろうことか理想とは正反対な超清純派な女の子が告白してくることからはじまる「女神の条件」。怠惰な毎日を過ごしていた青年が迷い込んだのは、目覚めるたびにクリスマスという無限ループな毎日で…という「blessing20XX」。祖父の葬儀に参列するも、何年も会っていないために悲しみも涙も湧いてこないヒロインが、後ろめたさを感じていたが…という「日だまりの欠片」。そして、父親一人、社会人の兄妹二人で平穏に暮らしていた中に、主人公の後輩が嵐をもたらす「家族には秘密がある」。
どの作品も割と記憶に良く残る作品だったのですが、まずは「梅酒」について語りましょうか。なかなか惹き付けられる表紙・タイトルで、最初表紙を見た時「酒蔵の話かな…」なんて勝手に妄想したのですが、そんなことは全くありませんでした。どんな内容かというと、内気な女子中学生が、ひょんなことから二回りくらい年が上の地味な公務員の家に足繁く通うようになるというお話。

ヒロインのゆえがとにかくかわいい。おっとりとした性格で、内気というかスローすぎてクラスメイトについていけていないんじゃ、と。時に大胆で、無垢。
公務員の古畑さんは、何かするわけでもなく、酒を飲み時折話しかけるだけ。話題も高村光太郎だったりと、そのシチュエーションとは裏腹に、やりとりから受ける印象は至って真面目で誠実だったりします。タイトルの梅酒も、高村光太郎の智恵子抄から。今どきの女子のテンションについて行けず、そんな中見つけた安心出来る場所。けれどもやっぱり、こういうのはよくないのかも…そんな目の前にある安堵と、心の奥底でちらつく不安とのゆらぎが、淡いタッチで儚げに描かれます。高村光太郎が題材として登場しているからか、どこか文学的というか、懐かしさや古めかしい匂いをどこかに感じるような作品でした。
どの作品もひと捻り入れて来るというか、まず「王道では進めないぞ」という感が読んでいてありました。「女神の条件」も、シンプルなラブコメディかと思いきや、最後のオチがちょっと斬新でしたし、唯一ファンタジー要素の入っていた「blessing20XX」も、少ししんみりとするラスト。なんていうか、完璧なハッピーエンドではないんですよね、どれも。どこか傷であるとか、後悔のような感情が残っていて、それでもトータルで見たらOKだよ、みたいな。また雰囲気が前面に出た、どちらかというと説明的でない作風でもあるので、ベタをはずれるような作品がお好きな方はドンピシャかもしれません。

「家族には秘密がある」より。最後に収録されているこのお話だけは、割とストレートというか、ありのままに感動を受け入れられる真っ直ぐさがありました。1冊で通してみると、最後このお話でほっこりできるので、読後感は良いかと思います。
個人的に一番印象に残ったというか、驚いたのが「日溜まりの欠片」。とある女性が祖父の葬儀に行くというだけのお話なんですが、短いとはいえこれで1話描いてしまうのか、と。シチュエーションだけでもわかるかと思うのですが、全く持ってアヴァルスっぽくないんですよね。というか、こんなストーリーは他の雑誌でもあんまりみないです。ストーリーに感銘を受けたというよりは、こういうお話を描こうと思って、実際に描ききってしまうその勇気と、これにゴーを出した出版編集さんすごいな、と。
【男性へのガイド】
→この一歩引いてひと捻り入れる感じは、男性っぽい感性という感じがいたしました。
【感想まとめ】
→ アヴァルスでこういう作品が読めるってのはあんまりないと思いますし、色々な意味でちょっと注目してみて良い作品なんじゃないかな、と思います。全力プッシュしきれないのは、どこか地味な印象が拭えないのと、決して万人受けするような物語展開ではないと思うからなんですが、いやでも「梅酒」のゆえはきっとみんな好きだろうしなぁ、なんて、色々とぐるぐるする作品です、はい。
作品DATA
■著者:幸田真希
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックス アヴァルス
■掲載誌:アヴァルス
■全1巻
■価格:571円+税
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