
かわいくなりたい
これからもオレのこと
先生が忘れないように
■僕のクラスに今まで見たこともないほど若い新任の先生がやってきた。南のほうから来た先生は、雪がめずらしいと言い、夏は涼しいと喜んでいた。そんな先生が僕に「かわいいね」と言って来たことで、僕の胸はざわめいて…。「相澤先生、僕 かわいいですか?」…繊細な少年の淡い恋心を描く、センシティブストーリー。
お久しぶりです。年度末ということでちょこちょこと忙しかったりしました。チーム異動が決まったり、試験受けたりドラクエ7やってたりしました。更新停滞の元凶は…ドラクエですかね。ということで、久々の更新です。今回ご紹介するのは、平尾アウリ先生のスピカでの連載作。スピカでは「OとKのあいだ」(→レビュー)に続いて2冊目になるでしょうか。今回はいかにも怪しげな表紙に加え、裏表紙には「相澤先生、僕 かわいいですか?」なんて、心のどこかを刺激されるような台詞があり、読む前からちょいと期待感高めでございました。
物語で描かれるのは、とある田舎に育つ少年の淡い恋心。主人公の少年・田中大樹が5年生の時、彼のクラスにとても若くてかわいい先生・相澤先生が南のほうから赴任してきます。背はそんなに大きくなくて、色白で足も遅くて、見ためがなにより女の子っぽかった大樹にとって、自分の見ためは大きなコンプレックスでした。そんな大樹に対し相澤先生は、大樹を堂々と「かわいい」と言い放ち、その見ためを全肯定します。ちょっとだけ感じた、特別扱いの気配。それは、一人の少年の心を動かすには、充分すぎる出来事なのでした。以来相澤先生のことを目で追うようになった大樹は…

自分の男らしくない部分がコンプレックスであった少年が、年上の女性に「かわいい」と全肯定されることによって、恋心を抱き、果てはその自分自身の「かわいさ」に執着するようになるというお話。「かわいい」自分だからこそ、自分を好きでいてくれる。そんな想いに囚われた大樹は、妹の制服を来てみたり、ちょっと化粧に興味を持ってみたり…。女装する少年というと志村貴子先生の「放浪息子」あたりを思い出しますが、自分のために女装をするあちらの主人公・修一とは対照的に、大樹は恋心をこじらせて変な方向に走ってしまうという他者発進の女装となっています。別に女の子になりたいわけではなく、とにかく「かわいく」かつ「このまま」でありたい。しかしそんな想いとは裏腹に、成長期を迎えた彼の体は、段々と男らしくなっていくのでした。

女装しても、誰かに見せるわけではありません。先生に見てもらい「かわいい」と言ってもらえたことはあったけれど、小学校のときの、それっきり。
スタート時は小学生であった大樹ですが、回を追うごとに成長していき、物語の最後ではなんと高校生にまでなってしまいます。そしてその間、憧れの相澤先生と会うことがあるかというと…なんと殆どないという。恋心を抱いてずっとそれを抱えているにも関わらず、それを自分の中でずっと燻らせ続けているという、このモヤモヤ感。女装とも相まって、割と気持ちの悪いキャラに仕上ってしまっているのですが、それをこの絵柄が上手く中和してくれているというか。それに誰しもここまでではないにせよ、ちょいと人に言えないような気持ち悪さを思春期時代は抱えているよね、っていう思いもありつつ、この主人公、そして物語に関してはかなり私は肯定的というか、好きな類いのお話でした。
1巻完結ということで短いお話ではあるのですが、そもそも膨らませようのないくらい狭い世界での話ですし、物語の密度もちょうど良かったです。そして何より、物語のまとめ方が美しかった。憧れの対象をシンボリックな行為で捉えておいて、それを上手く使っての締めというのが、ドストライクです、はい。
また読切りが1作収録されているのですが、こちらも思春期の男の子が、お隣の奥さん(未亡人)に憧れを抱いてしまうという危なげはお話。憧れの対象こそ違えど、毛色は表題作と全く同じで、単行本としての統一感に溢れる構成だと思います。
【男性へのガイド】
→平尾アウリ先生の作品は男性向けの雑誌で連載されていたとしても、あまり違和感がないんじゃないかな、と思います。本作も男の子が主人公ですし、また然り。
【感想まとめ】
→こういう危なげな感じのお話は大好きです。たっぷり堪能させてもらいました。このウジウジした感がいい(イヤって言う人もいると思うけど)。オススメで。
作品DATA
■著者:平尾アウリ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:バーズコミックスピカ
■掲載誌:Webスピカ
■全1巻
■価格:619円+税
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