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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] [オススメ] 2013.05.26
1106276583.jpg安藤ゆき「透明人間の恋」


どうして
あめはふるの?



■読切り5編を収録。それでは、表題作をご紹介。
 初告白の返事は「あんた、鏡見たことあんの?」。その晩、鏡を見てみると、眉毛はつながり、うっすらと…ヒゲ?久々に見た自分の姿に田辺さんは、一念発起をするのですが…。不可視な存在ゆえ、己が瞳にも投影不可能。そして色を失った私の恋の物語。

 安藤ゆき先生の実に4年ぶりのオリジナル単行本でございます。前作「不思議なひと」(→レビュー)が本当に良かったので、新作を心待ちにしていたのですが、やっと、やっとですよ。ということで、「透明人間の恋」のご紹介です。収録されているのは、読切り5編。うち1編は8ページのショートストーリーとなっており、残りはそれなりのボリュームある読切りとなっています。どれも素敵な内容だったので、気になったものを中心に、それぞれご紹介していきたいと思います。
 
 表題作は「透明人間の恋」、あらましは冒頭でご紹介した通りの内容。好きになった男の子に人前で告白するも、容姿のことを酷く貶められフラれてしまった田辺さん。家に帰って鏡を見てみるとそこには、髪はぼさぼさ、眉毛はつながり、うっすらヒゲが生えている、荒れ放題で手つかずの顔が。それを機に、顔を、髪を、服を整えてみると、いつしか美少女と噂されるまでになるのですが…。
 
 
透明人間の恋1
 地味な女の子が一念発起して、美少女に生まれ変わるというストーリー自体は物珍しいものではないのですが、地味すぎて周りから気づかれないどころか、自分ですら自分に気づいていない状況という出発点が面白く、さらに容姿が変わってもヒロインの評価軸がブレないところがステキでした。一風変わった着眼点を、読切りの中に恋愛ものとして落とし込んで来るのは、結構難しいんじゃないかと思うんです。
 

 3話目「マトリョーシカ」は、今まで色々な女の子と付き合ってはフラれている主人公が、いつものように親友の女の子に慰められにいくのですが…というストーリー。初っぱなのシチュエーションで、結末はもう見えたようなものなのですが、これも描き方がユニーク。フラれた彼女に贈ったマトリョーシカをきっかけに、幼なじみ二人のエピソードを、アイテムをキーにして段々と遡っていき、物語は転がっていきます。読切りで回想を詰め込みすぎると、少々慌ただしくなってしまうのですが、そこも無理なく、話の中の大切なエピソードとして機能。終わり方も、雰囲気たっぷりに良い余韻を残して。なんてことない男女のやりとりを、こうして時間軸を遡り、素敵に彩ってくれました。

 個人的に一番印象に残っているのが、最後に収録されている「drops.」。本作は、雨の日の男女のやりとりが描かれたお話。高校生、小学生、大学生、社会人と、様々な男女が雨と共に描かれているのですが、実はこれらのエピソードが、最後思わぬつながりを見せるという。途中まではつながりなんか想像させないんですが、段々とピースがはまっていき、最後の方には「おおおおお」と。読切りなんて滅多に読み返すなんてしないのですが、本作に関して言えば、もう一度読まざるを得なかったです。遡って読んでみて「なるほど、こういうことか!」と。シーンだけでなく、登場人物もしっかりつなげて完結させているあたりも、すごいなぁ、と。久々にオシャレで、かつ面白い読切りを読んだ気がしました。これは是非とも、読んで頂きたいところ。


透明人間の恋
雨のエピソードということで、相合い傘や雨宿りなんていうベタなシーンも多々登場します。そういうありふれた風景を上手く組み合わせて、全体として面白い物語を組み上げます。


 その他ショートストーリーの「そこは注文の多い料理店」と、とっても良い人な男の子と、大食いの女の子を描いた「勝手な2人」が収録されています。前者は結構強引な落とし方が印象的で、後者は割と正攻法な青春恋愛ものかな、と。掲載誌は別冊マーガレットなのですが、纏う雰囲気は“オトナ”なそれで、Cookieあたりに掲載されていた方がしっくりくる印象。レーベルは別冊マーガレットですが、幅広く読めるのではないかな、と思います。
 
 各話の紹介でも書いたように、特筆したいのは仕掛けのユニークさ。仕掛けを機能させるにはそれ相応の“理屈”が必要で、物語運びがややカッチリした理屈っぽい印象を受ける方もいるかもしれません。ただだからこそ、読切の短さでもしっかりと印象に残る物語に仕上っているわけで。何はともあれ、期待に違わぬすごい短編集でした!これからもっともっと読みたい作家さんです!


【男性へのガイド】
→恋愛色強めで台詞回しも多少クサい部分があったり、女性向けの感が強いです。
【感想まとめ】
→4年待った分の補正があるのかもしれませんが、すげえ面白かったです。これは是非おすすめしたいです。安藤ゆき先生を知らない方は是非チェックを。


作品DATA
■著者:安藤ゆき
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「別冊マーガレット」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

こんにちは初めて書き込ませていただきます。
今日偶然この漫画を買って凄く面白かったので、誰かレビューしてないかなとおもったところこちらにたどりつきました。
色々な方に読んでほしい、漫画ですね。
レビュー今後も楽しみにしています。
From: sk * 2013/05/27 21:53 * URL * [Edit] *  top↑

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