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Tag [続刊レビュー] 2013.05.27
作品紹介→東村アキコのルーツが赤裸々に:東村アキコ「かくかくしかじか」1巻




1106280458.jpg東村アキコ「かくかくしかじか」(2)


私はまだもがいてる途中だよ
いつまでたっても
あの時のままだよ



■2巻発売しました。
 日高先生にしごかれて、美大受験を乗り切った明子。夢に近づくはずが…?少女マンガ家を夢見たあの頃を描く、セキララ、青春記、煩悶の第二章!!!!


〜2巻発売です〜
 2巻発売しました。年末年始のまとめ記事で、本作を継続作の1位にしたのですが、2巻がこのタイミングで発売ですよ。1巻では日高先生にしごかれる地獄の受験生時代が描かれておりましたが、2巻では大学に合格してからの生活が描かれていきます。
 
 見事美大に合格し、金沢で大学生活をスタートさせた明子。あれだけ大変な受験期を過ごし合格したというのに、合格した途端に絵がかけなくなってしまいます。描こうという気は、多少はあった。けれども、彼女を誘惑するものは、逃げ道は、それ以上にありすぎたようです。はい、大学生にありがちな、遊びに走るパターンです。
 
 ここからは怒濤のだらけた大学生活が描かれる形に。自分自身もそうでしたが、この頃って時間だけはたくさんあるので、色々考えることは多いんですよね。なので、ネタには事欠かない。ただやっぱり動きはなくて、うじうじと絵に向き合わない様子は、やや冗長でそしてこの気持ちがわかるからこそ、重苦しい。金沢ということで、日高先生と会う機会が減りエピソードが減ったというのもありそうで、1巻ほどのキレの良さは成りを潜めたような印象がありました。やっぱり日高先生やごっちゃんみたいな、ぶっ飛んだキャラがいてこそなんでしょうか。 


〜後悔を描くことで消化すること〜
 とはいえこのパートは物語上必要不可欠なもの。この物語を、日高先生への感謝と、そして後悔を描くものだとするのであれば、あれだけ懸命に受験期に指導してくれたにも関わらず、堕落して絵を描かずにいる大学生活というのは、一番の“後悔”パートになるわけで。1巻でも似たようなエピソードはありましたが、基本的には日高先生に従い、辛さが先行するような内容。翻って2巻では、離れているがゆえの裏切り、逃げみたいなエピソードが放り込まれて来るようになりました。特に印象的だったのは、先生がわざわざ金沢に来てくれた時のエピソード。来てくれたにも関わらず、嫌いなわけでもないけれど、見られてしまうのは恥ずかしいし、鬱陶しい…そのため、ろくに話もせずに


かくかくしかじか2−1
こんなことを


先生は家に泊まったものの、結局明子は彼氏の家に泊まり、家には先生が一緒に飲もうと持ってきたであろう焼酎だけが。こういう時、いつも後悔するんですよね。


かくかくしかじか2−2
そしてこうなる。


 私も実家の両親とは多少折り合いが悪く、たまに会っても鬱陶しく思ってついつい悪い雰囲気にしてしまったりして、そのたびに後悔するんですよね。離れて暮らしている以上、そうこの先会う回数も多くない。東京で、故郷で会うたびに「今回こそは」と思って会うのですが、それでも不思議なもので、まだ自分が子どもだからなのか、イヤな言葉を言ってしまったり不機嫌になったりすることがしばしば。それじゃあいかんと、ちょうど一昨日、この作品を読んだ後に父親に東京で会ったのですが、父親のリクエストに応えて、行きたい居酒屋に一緒についていき、さらには長年の夢であったキャバクラに親子で行って参りましたよ。これまで頑なに拒否していたのですが、行ってしまえば恥ずかしさはあれど、それなりに楽しいもので、少しは親孝行になったかな、なんて。
 
 それこそ、今恩返しできる人であれば次がありますが、そうでない人であればそれは後悔として自分の中で残り続けます。どうしたって、自分の中で消化していくしかないのですが、一つこういう形でその後悔を発露・消化できるというのは、すごく素敵なことだと思います。こうして自分の中に燻っていたものを、マンガに描いて吐き出すことで、少しは楽になるし、衆目に晒されることで相応の辱めを受けて納得して消化できるし。


〜私の感受性がないだけなのか、よみとれなかったもの〜
 さて、今回も面白さと切なさが入り交じる内容となっていたのですが、作者の語りパートで、ちょっと意図がわからなかったシーンが。それが学園祭から、自分のその後を語ることになったシーンでの、下記の言葉
 

 
10年目くらいに子供のことを描いたマンガがポンっと売れて
私の口座に大きなお金が振り込まれた時
私は悔しくて悔しくて
しばらくそこから動けなかった


  私の感受性がないのか、なんで彼女がここで悔しいと感じたのか、ちょっとわからなかったのです。ごっちゃんのことを描いたことなのか、それともやっと大きなお金が振り込まれた時間的な話なのか、また他のことなのか。前後の文脈からちょっと読み取れなかったので、そのストレートな感情の発露と相まって、余計に印象に残っていまして。この先その意味がわかってくるものなのか、それとももうここで完結している話なのか。ともあれ、3巻が気になるところ。楽しみに待ちたいと思います。


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カテゴリ「cocohana」コメント (6)トラックバック(0)TOP▲
コメント

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From:  * 2013/05/28 03:17 *  * [Edit] *  top↑
こんばんは!
いつもこちらのブログで紹介されている漫画が気になってついつい買っています!(笑)

疑問の箇所なのですが、そこは自分の考えた内容の漫画は全然売れなかったのに、ちょっとしかきっかけで描いた息子の話の漫画が売れたので納得できていないのかなって思いました。

これからも更新頑張ってください!楽しみに待ってます!
From: 読者 * 2013/06/01 02:19 * URL * [Edit] *  top↑
感想、全部同意です!!
かくかくしかじかは現時点では間違いなく傑作です。
今後、アキコ先生の手抜き癖がでないことを祈る。

テンパリのお金~云々は私も疑問に思いました。
私の推測ですが、今でこそテンパリの影響もあって
育児漫画ブームが来ており、大物作家さんも続々参入してますが
それ以前は「育児漫画」と言うジャンルの地位が低かったように思います
(我が子をネタにした漫画・・・って確かに微妙ではありますよね。)
それが件のモノローグの原因なのでは?
From: ~名もなきお * 2013/06/09 01:53 * URL * [Edit] *  top↑
わたしはその悔しさについてのモノローグ、初見のときにとても分かる!って思ったところなんですよね。

漫画の道を選んで、売れっ子になるべく格闘している間は目の前だけを見ていられる。
でも、成果としての大きな収入を得てしまったとき、自分はもう漫画家になってしまって、
いつか向き合おうと、向き合える時が来るんじゃないかという希望を捨て去れずにいた
大きな白いキャンバス(有り体に言ってしまえばハイアートへの道)は、
ここからの自分の人生には無いのだと、認めざるを得なかった瞬間が来たのだと思うのです。

エッセイ漫画という肩の力を抜いて描いた作品が最初のヒットとなったことも、
過去の自分の努力が無になったような苦い感覚をいや増した気もします。

わたしはすごく共感した感じてしまったけれど、実のところまったく当たってないのかもしれませんね。
でも、潰えた夢、実らなかった努力への苦い惜別の想いとして、これからもわたしの中にずっと残っていくであろうと思った名モノローグでした。
From: ねむくま * 2013/06/23 13:27 * URL * [Edit] *  top↑
はじめまして、こんばんは。
余計な情報でしたらすみません!

「悔しい」の表現については、現在発売中のパピルスという雑誌の最新号で、作者が答えられていました。
From: おむすび * 2013/07/06 00:10 * URL * [Edit] *  top↑
はじめまして!
いつも楽しく拝見しています。

悔しいの意味については、先日発売された最終巻で描かれていましたね。
そういうことだったのか…と思って胸がいっぱいになりました。
From: るんぺる * 2015/03/26 10:36 * URL * [Edit] *  top↑

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。