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Tag [続刊レビュー] 2013.07.15
作品紹介→軽妙で濃密…落語界を舞台に描く人情落とし噺:雲田はるこ「昭和元禄 落語心中」
2巻レビュー→なおも濃く、深く、小気味よく…:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」2巻
3巻レビュー→菊比古にとっての“落語”:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」3巻
作者他作品→気になる相手は子持ちのバツイチ…けれども守ってあげたい:雲田はるこ「野ばら」



1106288537.jpg雲田はるこ「昭和元禄落語心中」(4)


これがアタシの
心底欲した孤独



■4巻発売しました。
 ついに助六、破門となった。落語を辞めるな、師匠に詫びろ、必死にくどく菊比古に、それでも耳を貸しちゃくれねぇ。あげくに身重のみよ吉と、手に手を取っての道行きだ。独り落語に打ち込む菊比古に、七代目がついに明かした「八雲」と「助六」の巡る因縁の噺とは…?
 

〜特装版が豪華〜
4巻発売しております。今回は特装版として、手ぬぐい付きの単行本が発売されておりました。私も予約して手に入れましたよー。もったいなくて袋開けられていないのですが(笑)。通常版と特装版は表紙も違っていて、通常版は上に表示されているようにみよ吉メインですが、特装版は付録の手ぬぐいを頭に被った菊比古の姿が描かれています。手染めの手ぬぐいで、限定数は生産できるギリギリの量だったとか。Amazonでは元々取り扱っていませんでしたが、セブンアンドワイでは在庫ありそうですね。どういう仕組みなんでしょう。


〜別離と再会〜
 さて、4巻ですが3巻にも増して濃密なドラマが描かれていました。2巻、3巻ではお互いに切磋琢磨し落語の腕を磨く助六と菊比古の姿が印象的でしたが、4巻では助六の破門をきっかけに八雲と助六の因縁が明らかになり、さらに二人の別離と再会におけるそれぞれの葛藤が情緒的に描かれておりました。
 
 今回ポイントとなっていたのは、七代目・八雲によって語られた、助六と八雲の因縁でしょうか。元々、初代・助六が八雲に弟子入りしていたことは、作中で語られていたのですが、このような因縁があったことは今回初めて明らかになりました。今の菊比古と同じように、才能溢れる助六に嫉妬を抱き、けれども八雲を継ぐのは身内。先代八雲は決してその因縁を持ち込むまいと思いつつも、結局このような状況になり、そのことを悔やみつつ亡くなっていきました。そして反発心なのか、はたまた想いを継いだのか、菊比古は師匠ができなかったことである、八雲の名の継承をさせるため、助六を呼び戻しに行くのでした。

 離別と再会。ここで呼び戻しに言った時の菊比古の言い分がなかなか痺れるのですよ。


昭和元禄落語心中4−1
だから無くなったら困るんだよ
アタシの落語の為に
お前さんに嫌気が差そうが知った事か
落語界でもお客の為でもねぇんだよ
アタシの為にやれって言ってんだ



 呼び戻したい理由はあくまで「自分の落語のため」。助六のことを思ったわけでも、落語界のためでも、お客のためでもないと言い放ちます。3巻のレビューでも書きましたが、彼にとって落語は、自分の居場所をこしらえるためのもの。あくまで孤独に、自分だけが在り続けるものです。そのスタンスはこの場でも変わる事はありませんでした。この言いっぷりが本当に格好よかった。こう言ってくれたからこそ、助六も多少は心動かされたんじゃないでしょうか。

 この時菊比古は「自分の落語のため」と言っていますが、彼が与太郎に落語を継承しようとした時に交わした約束のうちの一つに、「落語の生き残る道を作ろう」というものがありました。これは、彼が助六と交わした約束です。菊比古は“変わらない落語”を、一方の助六は“時代によって変わる落語”をそれぞれすることで、二人で落語の生き残る道を作ろうと言ったもの。そのことを考えると、先の発言は少々矛盾する気も。ただこれは、助六を引き戻すためのはったりかもしれませんし、また落語と落語界は、決して同じ意味ではないのかも。そもそも落語が生き残る道を作るには、この二人のどちらが欠けてもダメ(これは八代目・八雲が言っていたことです)。菊比古が彼との約束をどうしても叶えたいのだとするのであれば、「自分のため」というのも至極納得が行く所です。


〜死神〜
 先の発言をした時に、助六は菊比古のことを「まるで死神のようだ」と言いますが、4巻では菊比古の死神を演じるシーンが数ページに渡って描かれます。


昭和元禄落語心中4−2
師匠が亡くなり弔い的に披露した場面なのですが、まさに迫真。これをきっかけになのかわかりませんが、死神という噺が、彼を象徴する一つになったことを表しているようでした。
 

 4巻に限らず、本作では「死神」は象徴的に描かれていてます。与太郎が八雲に弟子入りを決めたのもの、刑務所で「死神」を聞いたからでした。ここで登場した「死神」が、後に与太郎を呼び寄せるきっかけとなるなんて、なんだかちょっと運命的ではないですか。


〜次で八雲篇は完結のようです〜
 次巻予告を見ると、どうやら八雲と助六篇が5巻で完結となるようです。いよいよクライマックス。俄然気になるのが、助六とみよ吉の最期。1巻で度々そのことについて語られていたのですが、核心には迫らず。「不慮の事故」として片付けられるだけです。それでも小夏は、「助六は八雲が殺した」と言い放ち、八雲もまた「半分自分が殺したようなもの」と言うわけですから、その真相はきっと壮絶かつ重苦しいものであることは想像に難くありません。1巻から読み取れるヒントとしては…

・助六とみよ吉は一緒に亡くなったらしい
・現場には小夏もいたらしい

 なんてことぐらい。それと、小夏は助六のことは非常に慕っているような発言をするのに対して、母親であるみよ吉についてはあまり語らないんですよね。4巻時点でもそんなに好いていないように受け取れるのですが、やっぱりどこか嫌っている節があるのでしょうか。仕事についても、母がやっていた芸者ではなく女中を選んでいますし。この後菊比古との再会が引き金となって、さらにもう一悶着あり、そこで決定的に嫌ってしまうとか(ってこれは完全な妄想ですが)。また、「父を殺した」とは言っても「母を殺した」とは言っていないんですよね。これもまた、ヒントとなるかも。それと、女に落語をさせたくないことについて、八雲が「女は恋をすると狂う」と言っていたことも、やや意味深な感じがありますし…って気にしていたらキリがない。何にしたって、5巻で全てが明らかになるのです。この話は、与太郎だけでなく小夏も一緒に聞いているはずですから、小夏の長年の願いが叶う事になるわけですよね。八雲と助六篇が完結したその“明け”で、一番気になるのは何より小夏だったりするのです。もう、続きが気になって仕方ない!


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