このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.07.21
1106300337.jpgモリエサトシ「星空のカラス」(1)


行くよ
そこまで



■烏丸和歌は囲碁が大好きな13歳!プロ棋士だった祖父から囲碁の楽しさを教わるが、母親には反対されていて…。そんなある日、和歌は、若手天才棋士としてメキメキ頭角を現している青年・鷺坂総司に出会う。軽薄でオレ様気質な鷺坂を避けようとする和歌だが、彼の身も魂も削る対局を見て…!?

 「白磁」(→レビュー)などを描かれているモリエサトシ先生の新連載です。1巻発売は今年の2月頃なのですが、最近やっと読んで、とても面白かったのでご紹介。少女漫画で囲碁漫画、という珍しいアプローチの本作、ヒロインはモリエサトシ先生のキャラらしい、黒髪ロングが映える美少女です。プロ棋士の祖父と碁を打つことで囲碁を覚え、いつしか大好きになっていた和歌。毎日囲碁のことばかり考えて、囲碁ばかり打っている彼女は、ある日若手天才棋士として話題の16歳・鷺坂総司に出会います。ひょんなことから彼の対局を目にすることになった和歌は、その普段の軽薄な態度とは全く異なる、魂を削るような戦いぶりに圧倒されることに。いつかこの人と同じレベルで戦いたい…そう感じた和歌は一層囲碁に力を入れるのですが…というお話。


星空のカラス
この表情、この熱量。囲碁では非常にエネルギッシュなヒロインが、物語に勢いを与え続けます。


 囲碁がテーマというのはこと少女漫画に於いては非常に珍しいですが、漫画の題材としては「ヒカルの碁」という金字塔があるため、未踏・不毛の題材というわけではありません。少女漫画ですから当然恋愛要素も…と言いたい所なのですが、ヒロインはこう見えてまだ13歳という年齢設定。そのため、今時点では恋愛要素は一切なく、もしあるとしても、もう少し物語(時間)が進んだ段階で、となるでしょう。目下物語の軸に据えられるのは、ヒロインが囲碁でどんどん強くなっていくという、成長物語。そのテンプレは完全にスポ魂もの、バトルもので、少年漫画的な空気感が漂う作品となっています。
 
 ヒロインの目下の目標は、天才棋士・鷺坂総司と同じステージで対局をすること。そのためには、棋力を磨いてプロになるしかありません。しかし彼女の母親は、折り合いの悪かったプロ棋士の祖父のイメージが良くなかったことから、娘が囲碁をすることには大反対。「大きい大会で優勝できなかったら囲碁を辞める」という約束の元、最強の相手を送り込むという鬼畜ぶりを発揮します。負けたら終わり、徐々に強くなる敵、そして最後に立ちはだかる最強の刺客と、その文法は完全にバトルもののそれで、読んでいて非常に熱くなれます。

 囲碁のルールは殆ど知らないのですが、それでも全然楽しめる内容となっています。というか、あまり詳しいルールや戦略については解説されません。囲碁のスタイルが、「とにかく石を取る」「なるべく生かそうとする」といったような違いがあることは描かれるものの、“この一手がものすごい”的な、戦略的な盛り上げは殆どなし。少女漫画なのでメイン読者は女性…ということを考えると、そこまで細かく解説してしまうと、敷居が高く感じられたり、間延びしてしまったりすることから、食いつきが弱くなってしまうことを懸念してなのかもしれません。これぐらいだからこそ、食いつきやすいし楽しみやすい。監修も入っている事からわかるように、決して囲碁の描写を疎かにしているわけではないので、囲碁に興味を持ってもらうきっかけにも充分成り得るかと思います。一方で、経験者が「ディテールにまで拘った囲碁漫画」という先入観を持って読みはじめると、若干面食らう部分はあるかも。
 
 
星空のカラス1−2
囲碁はその人の生き様を表す。囲碁のテクニックを押し出した作品というよりも、その人自身を映す鏡としての役割が強いかも。

 
 ちょうど2巻も発売されたところ(まだ読めていないです…)。今年はあまり新作を読めていませんが、本作はそんな中かなり印象に残った1冊でした。ちょいと熱いスポ魂系マンガを所望している方には、ぴったりのタイトル。面白いと思うので、是非チェックしてみてください。
 
 
【男性へのガイド】
→モリエサトシ先生の作品は割と男性にも読みやすいんじゃないかと思っているのですが、どうでしょうか。
【感想まとめ】
→面白かったです。こういう作品は大好き。既に話題になっている感じもありますが、遅ればせながらおすすめで。


作品DATA
■著者:モリエサトシ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:花とゆめ
■既刊2巻
■価格:400円+税


■購入する→A,azpm

カテゴリ「花とゆめ」コメント (3)トラックバック(0)TOP▲
コメント

囲碁の詳しいルールや戦略については解説されないとか、なのに恋愛なしのスポ根だと、何を目指してる漫画なのかよくわからないな。
というか、それなら囲碁を題材にする必要全くないじゃん、と思いました。
From: なな * 2013/07/23 00:18 * URL * [Edit] *  top↑
初めまして
わたしも 最近になって この漫画にハマりました。

熱いですよね!わくわくします!
リアル花ゆめでも おっかけていますが

和歌のためなら 全てを賭ける
囲碁は和歌と関わる手段に過ぎない

…と 優れた囲碁の才能を 明らかにあさっての方向に無駄遣いしている
サブヒーローがいるのですが…それがこれまた無駄にハイスペックでかっこいい!

今 ひたすら その情けないキャラに 萌えてます (〃ω〃)

大好きな漫画を熱く紹介していただき ありがとうございました!m(_ _)m
From: ことりん * 2013/09/24 20:43 * URL * [Edit] *  top↑
こんにちは、コメントするのは初ですが、時々レビューを参考にさせて頂いてます。
(少女漫画って、結構「小さい頃からの誌(社)で固定化」してしまうというか、特定の誌を(半ば惰性もあり)買い続けて、
昔から読んでいる誌以外の作品・作風・年齢層等って分からない事が結構あって、他誌作品って手が出しづらいのです。少年漫画もそうかも知れませんが。)

囲碁将棋欄?の新聞記事で紹介されて気になっていたマンガですが、囲碁という競技への理解度が「どういう競技か」というざっくり概要位なので、自分が読んでも大丈夫かな…と思っていました。
(将棋なら小学生の時に多少祖父のものでやってましたし、しおんの王にだだはまりしていた時期もあって基本的な事は分かるのですが。三月のライオンも気になる…)
描かれるのは「競技を通しての人間関係や見えるその人の生き方」(鏡とおっしゃられているように)、というタイプの作品なのですね。
スポ根バトルは大好きですし、今度読んでみることにします。
詳しい紹介を頂きありがとうございます。
From: ~名もなきお * 2013/09/26 20:23 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。