
こいつの踊り見とると
胸の奥が苦しくなるがは
なんでなんやろ
■情緒溢れる町に小さな風がそっと吹き込み、人々の内に秘めた「何か」が動きはじめる…。伝統芸能“おわら”を守り継ぐ地方の町に、東京から転校してきた少女・蛍子。地元の少年・光はある日、誰もいないはずの教室で彼女の意外な姿を見て…!?
「坂道のアポロン」(→レビュー)の小玉ユキ先生の新連載作です。前作は1960年代の長崎が舞台でしたが、本作は現代の富山のとある町(八尾)が舞台です。描かれるのは、伝統芸能である“おわら”をめぐる、秘密が入り交じった青春物語。主人公は、“おわら”が息づく町の高校に通う光。伝統芸能である“おわら”を愛する彼は、学校で「おわらファイブ」などと呼ばれ、結構な人気者。そんな彼のクラスに、ある日東京から転校生・蛍子がやってきます。体育の時間、誰もいない教室に光が行くと、そこには“おわら”を美しく踊る蛍子の姿が。東京の人間が知るはずも無い“おわら”を、こんなにも美しく踊るその姿に見とれた光は、その日以来彼女のことが気になるように。しかしどうやら彼女には、何やら秘密があるようで…というお話。

恋愛には興味はないが、おわらには興味がある。そんな主人公の興味を惹き付けたのは、黒髪が美しい東京からの転校生だった。そしてその興味は、やがて踊りから本人へと向けられていくのですが。。。
“おわら”というのはこの作品を読んで初めて知ったのですが、富山の伝統芸能で、今ではおわら風の盆というお祭りに、このおわらを観にたくさんの観光客が訪れるようです。例年9月1日〜3日にやっているようですので、ご興味のある方はチェックしてみては。
さて、話が逸れましたが、物語の方に戻しましょう。主人公は、そんなおわらが大好きな高校生。そんな彼が、謎多き東京の転校生のおわら踊りを目の当たりにし、次第に惹かれていくことから物語は大きく動いていきます。単にそれだけであれば、爽やかな青春恋愛ものに落ち着くのですが、そうはいきません。彼のもう一人の親のような存在である喫茶店のマスターと、その転校生・蛍子はどうやら顔見知りで、しかもただならぬ関係のよう。

そこでは見るからに恋愛の匂いが放たれておりまして、けれども二人は頑なにその関係について話そうとしない…そんな所に主人公は自ら首を突っ込んで行き、その謎を明らかにし、さらにはその関係に変化をもたらす役回りになってくると思われます。前作は友情を軸に据えていましたが今作は恋愛。ということで、また違ったテイストになってくると思われ、楽しみですね。
転校生との恋物語に、過去の関係を持ち込んで、より複雑で深みのある物語に。果たしてどのような過去があるのか。物語のポイントはまずそこなのですが、1巻時点では全くその全容は明らかになりません。そういう意味で、1巻は物語展開の準備をした段階で、本格的に動いてくるのはこれから。とはいえ現時点でかなり引き込まれるものがあり、続きが大いに楽しみです。
また本作は現代の物語のはずなのですが、その舞台がそうさせるのか、おわらという舞台がそうさせるのか、どこか懐かしい香りのする、非常に情緒溢れる雰囲気となっています。読んでいるだけで、その世界に引き込まれるような感覚があります。これは前作も同様で、小玉先生のファンも納得のはず。もちろんまだ小玉先生の作品を読んだことがない方も、充分にその世界を堪能できる一作となっていると思いますので、どちらにせよおすすめです。面白かった。
【男性へのガイド】
→坂道のアポロンが良かった方は是非とも読むべし。主人公が男子というところも、割と入り込みやすいのでは。
【感想まとめ】
→心情の描き出しが丁寧で、かつ深みがあります。独特の雰囲気も健在で、今作も続きが非常に楽しみでございます。もちろんおすすめ。
作品DATA
■著者:小玉ユキ
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers
■既刊1巻
■価格:429円+税
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