
りんもいつか
だれかに花束もらいたいな
■読切り5編を収録。それでは表題作をご紹介。
あいつのどこがいいのか、全然わからなかった。夏休みのあの日までは…。
中学に入学して一番はじめに喋った相手がひーちゃんだった。ひーちゃんは、いつも笑顔で明るくて、私はすぐに大好きになった。そのひーちゃんが好きだった男の子・永倉。何でもストレートに、ずけずけと発言する彼が、最初は苦手だった。けれども、あの日をきっかけに…。眠らせていたはずの想いが、偶然の再会で動き出して…
萩原さおり先生のデビュー単行本でございます。毎年集英社マーガレット・別冊マーガレットでは、素敵な新人さんが読切り集でデビューされるのですが、今年もまた楽しみなマンガ家さんが登場しました。読切りが、表題作含め5編を収録。どれも人と人とのつながり、重なり合いを描いた温かみのあるお話になっています。
それでは個人的にお気に入りだったエピソードをご紹介しましょう。まずは冒頭に収録されている「真っ赤なチューリップを君に」。小学生の男の子が、チューリップの花束を持って入院している女の子の元にお見舞いに向かう過程を描いた物語なのですが、これがピュアピュア&温かくてめちゃくちゃ癒されるっていう。

正装した男の子が花束を持っているという絵面がまず可愛くて微笑ましいのですが、内容もまた素敵。
エピソード的には、情けは人のためならず的な割とありがちなものではあるのですが、目に見える形で幸せを回収しないその謙虚さと、それでいてちゃんと彼の行動が意味あるものになっている、物語としての完成度の高さが目を引きました。それに加えて、最後の最後の描きおろしでちゃんと目に見える形で幸せな結末を迎えさせているあたり、良い構成だと思いました。これは単行本で読んでこそだと思うので、是非とも読んで欲しいところ。
もう1作は「ゆめのはなし」。絵が好きだからなんとなくで芸大・美大の予備校に通う女子高生が、才能溢れる期待の星の男の子と、ひょんなことから仲よくなるお話。序盤のエピソードは、「才能も夢もない子が天才と触れて、自信をなくすもお互いを認め合い、やがて惹かれていく」というよく見るエピソードなのですが、終盤で思わぬエピソードを投入し、ガラリとその印象を変えてきます。単調な恋愛物語かと思いきや、より深い絆を描いた厚みのあるお話に。こういう転調のさせ方もあるのか、と非常に印象的でした。

作品の印象として近いのは、羽柴麻央先生でしょうか。絵柄もなんとなく似ているのですが、ページ数が限られた中で、過去と今を絡めつつ物語に厚みを持たせる手法が実に巧く、印象が重なります。
例えばこの単行本で言えば、表題作の「ノスタルジア」、「キンモクセイ」、「ゆめのはなし」がそれ。悪い言い方をすれば通り一辺倒なのですが、微妙にニュアンスを変えてきているので、悪い風には映りません。むしろデビュー作ながら、自分のスタイルを持って高い安定感を保っているのは、すごいことなんじゃないかと思います。トレンドを生むような作品は生み出さなくとも、高め安定で良質な物語を提供してくれそうなイメージ(勝手すぎるが)。伸びしろがあるのかわかりませんが、非常に好きな作風なので、できれば早く定着して欲しいところです。
【男性へのガイド】
→恋愛のみでない辺が、普段少女漫画に触れない男性も親しみやすい形になっているのではないかと思います。
【感想まとめ】
→どのお話も何かしらの工夫がされていて、印象に残りました。あとデビュー単行本とは思えない程、安定感があって驚き。面白かったです。
作品DATA
■著者:萩原さおり
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税
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