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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.09.20
1106316000.jpg草間さかえ「迷信話集 うつつのほとり」


みーんな幸せになればいいのよ


■時は昭和のはじめ。少年は村に伝わる迷信を解き明かす。
 東京から山がちな村へとやってきた敬は、田舎ならではの迷信や風習に目を輝かせる。敬の心をひときわ惹き付けた不思議な少年・弥七は周囲に馴染まず、孤独をまとっていた。彼はもしかして化け狐?それとも天狗…?静養中の母親や、噂好きの村人たち、大切な真実は誰も教えてくれない…。
 
 BL作品などを描かれている、草間さかえ先生のクロフネZEROでの連載作品です。物語は、田舎に越してきた少年と、田舎の嫌われ者の青年との関係を描いた内容となっています。主人公は、裕福な家で生まれ育ち、母親の病気の静養のために山がちな田舎に越してきた少年・敬。敬が越してきた村の寺には、弥七という青年が暮らしています(所謂“寺男”)。金色の髪に青い瞳を持っている弥七を、村の人間達は「天狗の子だ」とか「狐だ」などと噂し、疎んでいました。しかし弥七と出会い、少しのやりとりを交わした敬は、彼が村人たちに噂されるような悪い存在ではないと確信します。以来人目を避けて会うようになった二人は、野山を翔け、心を通わせて行くようになるのですが…というお話。


うつつのほとり1
野山が遊び場であり、勉強の場。都会育ちの敬にとっては、弥七が先生。時に間違ったことを教えられたりするけれど、それもご愛嬌。


 配置はBLチックではあるものの、やはり主軸は友情や絆といった、より普遍的で全世代が持ち得る感情だったりします。周囲の噂を耳にするも、自分の見たもの・感じたものを信じ、それを貫き通せる心の強さと優しさを、主人公の敬は持ち合わせています。裕福な家の育ちということで、かなり素直な性格なのでしょう。一方の弥七は、周囲から誤解され蔑まれ生きてきたため、かなりの捻くれ者。けれども自分のことを受け入れて、自ら近づいてきてくれる人は滅多にいなかったことから、敬のことを拒絶することなく、不器用に不器用に、彼なりの歩み寄りというものを見せていきます。全く正反対の性格で、かつ年齢も離れた二人が作り出す関係は、どこまでも優しさと思いやりに溢れていて、心が洗われるようです。
 
 物語は、二人のやりとりだけに終始するものではありません。敬の家には体を壊して療養中の母の他、お手伝いさんが2人もいますし、村の少年たちとも仲良し、そして弥七の面倒を見てくれている山の和尚とも、絡みがあります。主観のみが支配する弥七との関係性の外に、村人という客観(誤解という阻害要因)が登場し主人公を刺激することで、物語は広がりを見せ、また主人公の敬も一歩一歩成長していくのです。最初は「自分だけが理解していればOK」という程度だったものが、彼への愛情が増すにつれて、「誤解を解きたい」と強く想うようになり、やがて行動に移すという、一つの関係性の変化と共に、一人の少年の成長を見れるという意味でも、この物語は良い。
 

うつつのほとり
これほどまでに主人公が伸び伸びと行動できるのは、彼のことを全て受け入れ、肯定してくれる、大きな心を持った母親がいるからだと思われます。あまり姿や顔が描かれない彼女(表紙の見切れも意図的なもの?)の存在は非常に大きく、物語に幾度となく影響を与えるという。一方で体調は芳しくなく、また夫は別の女に夢中でこちらのことなど気にも留めないという状況であり、そんな中、それでも敬には辛い顔ひとつ見せない気丈さが本当に素敵です。ただそんな母の様子に、実は気づいていて、元気づけようと行動する敬もまた優しいんだ。とにかく、このお話には優しさが溢れているんですよ!


【男性へのガイド】
→一瞬BLっぽいにおいはあるものの、そこ以外は全く気にならず。こういう舞台設定のお話が好きな方は、良いのではないでしょうか。
【感想まとめ】
→舞台設定そのままに、とても長閑で穏やかな物語でしたが、なんだかとっても心が癒されました。マイナーなレーベルの作品ですが、オススメですので、気になる方は是非。


作品DATA
■著者:草間さかえ
■出版社:リブレ出版
■レーベル:クロフネCOMICS
■掲載誌:クロフネZERO
■全1巻
■価格:600円+税


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