
夏彦も秋ちゃんも
みんな頑張ってるんだ
■時は明治。和食屋「かすが亭」の看板娘・あかねは、若き板前・夏彦と共に、店を切り盛りしていた。そこへ、あかねと子供の頃に結婚の約束をした許嫁・秋次が、洋食を学ぶ留学から帰国し、改めてあかねにプロポーズをする。恋の三角関係と明治の食べ物をめぐる、かわいくってドキドキなLOVEを、どうぞ召し上がれ。
桜庭ゆい先生のCOMICポラリスでの連載作です。なんか覚えのある作者さんの名前だと思ったら、「なぎさ@ホーム」(→レビュー)の先生ですね。新レーベルにその名前ありという印象が、私の中で今回でハッキリと付きました。
さて、本作で描かれるのは明治時代の三角関係。物語のヒロインは、食事処の看板娘として働くあかね。そしてこのヒロインのお相手として登場するのが、彼女の働く店で板前をしている夏彦と、かつて結婚の約束をした許嫁であり、海外から帰ってきた・秋次。当然秋継と結婚…と思っていたけれど、海外帰りの秋次はなんだか雰囲気が一変。また洋食文化を拡げようとする秋継に、頑固者のあかねの父はご立腹で、結局結婚の話は破談に。そんな中、夏彦が見せるふとした優しさに触れ、あかねの心は揺れ動くが…というようなお話。

相手役の一人、夏彦。口が悪く、何かにつけてちょっかいを出してくる男。けれども料理に対しては真面目で、たくさんいる弟・妹たち思いでもある。不器用な日本男児的なイメージです。
ついつい厳しい言葉をぶつけてしまうなど、不器用な性格だけれど一本気で男らしい夏彦と、優しい性格で外国人のように素直で明るく愛情表現をしてくる秋次。全く正反対のタイプの間で揺れるヒロイン。本作は、恋愛と共に明治時代の料理事情についても描いていきます。明治時代と言えば、文明開化の音がしだした頃。牛鍋をはじめ、続々と肉食文化と共に洋食が入ってきた頃です。そんな洋食の登場に戦々恐々とした和食。そんな食文化の対比みたいなものを、本作の恋模様にも重ねます。夏彦は和食、そして秋次は洋食。和食屋の娘としては和食の肩を持ちたくなりそうに思えますが、あかねは意外にも食に対してはリベラルで、秋次の作る洋食をちゃんと評価します。一方で和食の美味しさもしっかりと堪能。恋もごはんも、どっちつかずなのです。

もう一人の相手候補・秋次。外国にいたので、スキンシップ多用で愛情表現もストレート。元々はこんなのじゃなかったんですけれど。なので、それにはあかねも若干戸惑い気味。
本作でスゴいと思うのは、夏彦と秋次という二人の相手候補がいる中で、どちらが有利という感じが一切無く、絶妙に平行線を保ったままに物語が進んで行くという所。普通どちらかに肩入れしている感が見えてきて「ああ、これこっちとくっつくな…」というのがわかるのですが、本作に関して言えばどっちに転んでもおかしくないという状況。ヒロインとしても「こっち!」というのが明確になく、本当に分からない。ヒロイン自身が選びとっても良いと思うのですが、明治時代で女性の意思で相手選びというのが一般的でない…という時代背景もあるのかもしれません。
どちらのキャラも違った魅力を描き出し、かといってそれが過剰になることもない、これって結構難しいことなのだと思うのですよ。個人的な好みでは、不遇なキャラっぽい秋次に頑張って欲しいところです。ただどうしても胡散臭いんですよねぇ(笑)王道だったら、近くにもいて不器用な、夏彦ですかねぇ。ただキャラ達の名前から察すると、ヒロインのあかねに合うのは、夏よりも秋なんですよ。その辺含めて本当にわからない!さてさてこの恋路は、どうなることやら。
【男性へのガイド】
→シチュエーションからわかるように、女性向けの要素強し。
【感想まとめ】
→安定感、安心感のある物語構成で、本当に読みやすいです。何気に料理のちょっとした知識も身につきますし、面白く読むことができました。
作品DATA
■著者:桜庭ゆい
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリスコミックス
■掲載誌:COMICポラリス
■既刊1巻
■価格:571円+税
■試し読み:第1話 【PC】/【スマートフォン】
2話目以降