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Tag [新作レビュー] 2013.12.17
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なんか陳腐な言い方だけど
「しあわせ」って
こういうことなのかなぁとか
思ったりした



■セラとルミナは2ヶ月差の異母兄妹。父の浮気で出来た息子・セラは神経質で、本妻の妻・ルミナはおおらか。父と2人の母たちに仲良く育てられた結果、15歳の少年と少女は、男と女になろうとしてしまう。関係の露見、別離、再会を経て、歪なキョーダイが迎えた“10年後”とは…。兄と妹、ただならぬ10年愛。

 のばらあいこ先生のフィール連載作です。のばらあいこ先生ですが、過去の刊行本を見ると、主にBLで活躍されている先生のようで、本作が一般向けの最初の単行本になると思われます。タイトルは「にえるち」。なんだか生々しいタイトルとなっていますが、内容もなかなかのドロドロっぷりでございました。
 
 主人公は2人。少し複雑な血のつながりがある、兄妹のお話です。2人は2ヶ月差で生まれた異母兄妹。兄のセラは、浮気相手の子供で、妹のルミナは本妻の子。普通であれば離ればなれで暮らすところですが、2人の母親たちはどこか変でした。喧嘩も何もすることなく、当たり前のように共に過ごし、セラとルミナはずっと一緒に育てられたのです。一緒に過ごす日々は、2人が15歳になるまで続きました。それまで少年・少女だった2人は、急激にお互いのことを意識し出し、ついに男と女になろうとしてしまいます。しかしそんな中で…というストーリー。

 歪んだ家族関係の中で育った仲の良い異母兄妹の、劣情とも愛情とも取れる恋愛感情を描いたお話。最初に言っておくと、なかなか暗いです。1人の男を中心とした、2人の妻とその子供。普通であれば一方が離れていくところ、2人とも離れずに適度な距離を保ちつつ、子供を育て、気がつけば2人は思春期真っ直中に。そしてその2人は、そういった家庭事情が背景にあることを自覚しつつも、どうしても互いに離れることができず、やがて恋愛関係に。親子2代に渡って、特定の人物の間で閉じた関係性の中に帰結する、非常に狭い世界で繰り広げられる物語です。その関係性はある種、非常に不健全で、決して気持ちの良い物語ではありません(個人的には割と苦手な部類だったり)。


にえるち
強く惹かれ合うという感じではありません。けれども、どうしてもこの相手でないとダメだという確信が、そこにはありました。真っ直ぐな恋愛感情ならではの輝きみたいなものは成りを潜め、もっと根源的に求め合うような関係と言いましょうか。


 本作の場合は、物語の作りとして、最初から外の世界などないかのように描かれるあたりに、むしろ潔さを感じます。最初からないものを望んでも仕方なく、ならば存分にすがれる場所に固執しよう、と。本作では10年に渡る二人の想いというものが飛び飛びで描かれるわけですが、そこには向き合うか逃げるかの2択しかなく、他の道に進むという選択肢は描かれることはないのです。そのため、狭い世界ながら、心情の掘り下げは深いものとなっており、また主人公たちの想いも明確でわかりやすい。最後は時の流れに頼った感はあるものの、1巻完結という枠組みの中で起承転結がちゃんと落され、最後にはしっかりと救いがある。あれ、苦手なはずだったのに、意外と読後はスッキリ。こういう設定、こういう雰囲気の作品が好きな層というのは一定層いるはずで、しっかりとそういう人たちには訴求してくるのではないかと思います。


【男性へのガイド】
→重めの兄妹愛を描いたお話が読みたいという方は。BL感はないですよっと。
【感想まとめ】
→重い。ので、読むのに結構エネルギー使いました。閉じられた世界で、当人たちが納得して生きられるのであれば、それはもう幸せな世界であり、幸せな結末なのです、きっと。


作品DATA
■著者:のばらあいこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:667円+税


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