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2013.12.25
1106275707.jpgいがわうみこ「虹の娘」


…や なんかお前らって
ホントうっぜーなって!



■「お兄ちゃん アタシ親不孝かな」
 ヒロチカの妹には、親にも言えない秘密がある。芸術的な体でヌードモデルをする妹の“告白”の日を待つ兄は、密かにある作戦を企てる。表題作「虹の娘」のほか、不倫の末帰郷した女と男子中学生の加速する初恋、死んだはずの兄が突然現れ動揺する家族、イケメンとの三角関係に迷う純情乙女など、絶妙なまで彼らの“今日のできごと”を切り取った8編を収録。妙に切なく、不思議にときめく。
 
 このマンガがすごい!2014オンナ編にランクインした未チェック作品のレビューです。本作は15位で、作者のいがわうみこ先生はデビュー単行本「あれがいい これがいい」と共に2作をランキング送り込んでいます。すごい。両作品ともノーチェックで、遅ればせながら拝読した次第でございますです。正直「あれがいい これがいい」を読んだときはあまりピンと来なかったのですが、本作「虹の娘」はがっちりアンテナにハマって、そりゃあもう面白かったです。一筋縄ではいかないキャラクター達が、なんとも不思議な間で展開する、ありそうでなかった作品群となっていました。

 この独特の雰囲気をどう言い表したら良いのかよくわからないのですが、まとまらないなりにキーワードを挙げてみると「ちょっとネジ1本飛んだくらいの変人」「努めて明るいバカ」「狙って外すタイミング」。とにかくキャラクターがどれも変わっていて、そんなキャラ達が、独特の間でやりとりをするという。



虹の娘1
お気に入りのストーリーは、1話目に収録されていた「阿部くんと吽野さん」。阿部くんと吽野さん、この二人はセットでこそ魅力的。狙っている人がおっぱい星人だと聞き、講義中すらもおっぱい体操をするという行動力の高さを見せる吽野さん。ノリ良くやっているのか、ガチでやっているのか判然としない所が素敵です。お互いにノリ良くはぐらかしつつ仲良くしているのですが、その奥底に好意や優しさが見え隠れする関係性が歯がゆくて、せつない。傷ついた時の明るい行動って、エネルギーも使うし、本当に切ないじゃないですか。そして最後、ちょっと明るい未来が想像できるところも良し。1話目にこのお話が描かれていたことで、一気に興味を惹かれました。



 普通の人なんて一人もいません。ただネタ的にぶっ飛んだ形にしているわけではなくて、現実世界の日常にいる人間たちの“変わった部分”を増長して描いているだけなのかな、と。あと“変わった人”だけじゃなくて、普通の人なんだけどバカっぽく振る舞わせたり、また下世話に振る舞わせたりと、普通の人が普段は隠しているであろう面を前に出して描いているのかな、という感覚がありました。なので変な人たち、変な間、なんですけれども、描かれる情景や心情というのは日常という足場の上で織り成しているもので、それが妙に切なく心に響くのです。



愛され洋輔
あとは好きとはちょっと違うんですが、決して無視出来ない存在の「愛され洋輔」。「すげーウザイ」の一言で片付けられる、自身のイケメンを履き違えた自己中心的かつバカなキャラで、実際にいたら親しくなりたくないなぁ、と思わせるコイツ。相手は平気で傷つけるくせに、人一倍ナイーヴ。良いところを挙げてもあんまり出てこない。悪いところを挙げたらキリがない。うざいし、相手にしたくないんだけど、けれどもなんだか不思議と相手にしちゃう。とにかくこの単行本での存在感が飛び抜けていて、この本を読んだ方もきっとコイツの存在が頭を離れないはず。


 なんというか、どのキャラも結果的に愛おしいんですよね。そして気づいてみれば、どのキャラも作中で愛されているという。こういった愛する側のキャラクターの視点を通じての、「無意識的な色メガネ」でキャラクターを見せられているのかもしれません。洋輔はアンチテーゼ的に描かれているのかと思いきや、こうして気になっちゃっている時点で愛されているな、と。


【男性へのガイド】
→こういう若干シュールな作品がお好きな方もいらっしゃるかと。楽しめると思いますよ。
【感想まとめ】
→面白かったです。今年中にチェックできてよかった。


作品DATA
■著者:いがわうみこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:933円+税


■試し読み:くらん くらんく くらんくらん

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