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Tag [新作レビュー] 2013.12.30
1106349583.jpg吉岡李々子「キミに小さな嘘ひとつ」(1)


なのに今
あなたが
いない



■千星と明星は双子の姉妹。甘え上手で男子にモテるのは、妹の明星。不器用で告白もできず、怖いキャラとして認識されているのは姉の千星。正反対の性格の二人だけど、見ためは本当にそっくりで、誰も違いがわからない。唯一見分けることができるのは、幼なじみの宮本だけ。宮本と3人で過ごすはずだった誕生日、千星と明星に悲劇が…。

 「彼はトモダチ」などを描かれている吉岡李々子先生の新作でございます。本作はプチプリンセスということで、秋田書店からの刊行になります。吉岡先生というとベツフレの印象が強いので、なんだか不思議な感覚。帯には「『彼はトモダチ』以上の衝撃作、ついに登場」とありますが、本当だとしたらものすごいことになりますよ(色々な意味で)。
 
 さて、物語の主人公は双子の姉妹の姉です。見ためがそっくりで、身内しか二人を見分けられないという千星(姉)と明星(妹)。ただ性格は正反対。男に甘えるのが上手でいつも告白されまくっているのが妹の明星。しっかり者で怖い性格、言うなれば委員長タイプなのが姉の千星、こちらは全くモテません。そんな二人の幼なじみが、同じ学年の男子・宮本。彼は身内以外で唯一二人を見分けることができるのですが、どうもモテる妹・明星ではなく、怖がられている姉・千星に気があるよう。しかしそれを良く思わない妹・明星は、宮本と誕生日に二人で出かけたことを千星に「デートだ」とアピールし、彼女を諦めさせようと画策します。それにより意気消沈する千星でしたが、その後さらに気持ちを落ち込ませる出来事が。明星がその帰りに交通事故で亡くなってしまうのでした。宮本との間には微妙なわだかまりが残ったまま、彼は引越しをしてしまい、そのまま疎遠に。千星は高校生へと成長をするのですが…というお話。
 

キミに小さな嘘ひとつ1
のっけから重要人物が亡くなるのですが、要するに死者により残された誤解やわだかまり、罪悪感の中を生きる少女の恋物語という位置付けのお話と言えるでしょう。すごいのは、亡くなった妹が完全に性悪の悪役であり、また死んでしまったのでもはや挽回のチャンスも無いというとこでしょうか。


 登場した当初は悪役でも、その後優しい部分や憎めない部分を見せ、後半に挽回するパターンがままあるわけですが、本作の場合は死んでしまった為にそういうフォローが難しい状況に。千星自身は自覚していないとはいえ、物語中でのこの役回りはだいぶ可哀想な気が。明確な悪役が、勧善懲悪的に死に追いやられ、さらに蟠りを残し続けるというのは、なかなかの衝撃でした。ただこのまま終わりとも思えず、またタイトルが意味するところの主体が明星であるという可能性もあると思いますので、ちょっとだけ結末に期待したいところです。
 
 あらましの流れから、明星の死後の宮本と千星の関係性が描かれると思いきや、宮本とは疎遠になり、高校生になってからは今のところ登場していません。そのかわり、千星のことを見分けられる謎の同級生が登場し、彼女の心の氷を解かしそうな雰囲気を醸し出しています。二人はまだ出会ったばかりで、これから関係を構築していくことになります。恐らくそこにさらに宮本が再登場し、三角関係的な流れになったりするんじゃなかろうか、と。傷を持たずに彼女を受け入れ理解してくれる男の子と、同じ傷を持ちこれまた彼女を受け入れ理解してくれる男の子の間で、揺れるといった展開が美しい(と、個人的には思っているのですが)。


キミに小さな嘘ひとつ
王道ならば宮本ですが、個人的にはこっちの彼が。「彼はトモダチ」の印象から、メガネキャラが良くてですね。



【男性へのガイド】
→これは女子っぽい感じが前面に出た作品かと。
【感想まとめ】
→1巻時点では登場人物と舞台装置を整えたという段階で、この後物語が一気に転がっていくものと思われます。静かでどこか物悲しい雰囲気をたたえた物語がお好きな方は、こういう作品はうってつけかと思われます。


作品DATA
■著者:吉岡李々子
■出版社:秋田書店
■レーベル:プチプリンセスコミックス
■掲載誌:プチプリンセス
■既刊1巻
■価格:429円+税


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