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Tag [新作レビュー] 2014.01.19
1106362326.jpg楠田夏子/紅玉いづき「サエズリ図書館のワルツさん」


よい読書を


■「ピリオド」と呼ばれる事実上の第三次大戦から数十年。本は博物館に収められ、ケース越しでしか見られないような貴重な文化財となっていた。そんな時代に、本を愛し本を求める人々が集う場所があった。「特別探索司書」のワルツさんが代表をつとめる、さえずり町のサエズリ図書館。紙とインクと糊の匂いに満ちた楽園へ、ようこそ。

 「ミミズクと夜の王」や「青春離婚」(→レビュー)などの紅玉いづきさんと、「ことことカルテット」(→レビュー)の楠田夏子先生がタッグを組んだ作品。それでは、内容をご紹介。物語の舞台はは近未来の日本(と思しき国)。ピリオドと呼ばれる第三次大戦を経て、街や本が殆ど焼け落ちてしまった世界で、情報の多くは紙媒体ではなく電子データへと移行しています。本は前時代の産物で、文化財扱い。読書は道楽として位置づけられています。そんな時代にあって、数万冊の蔵書を一般開放しているのが、さえずり町にあるサエズリ図書館。特別司書であるワルツさんの元に、日々本を愛する人が集います。本と人でつながれる物語を、あなたにお届けします。


サエズリ図書館のワルツさん
本好きのために描かれたかのように、本への愛に溢れた作品。本の魅力…物語でない、本という存在そのものの良さを表す言葉というのは、簡単に考えても出てこないものなのですが、それが様々な言葉で、人物の表情で体現されるのです。すごい。


 そういえば、原作小説である「サエズリ図書館のワルツさん」、買ったまま積ん読状態だったことを思い出しました。現代のお話かと思っていたのですが、こんな設定だったのですね。「図書館」という設定ではあるのですが、そういった設定が背景としてあるために、所謂現代でいう「図書館」とは扱いが異なります。嗜好品、贅沢…そんな印象のある読書を、道楽で振る舞っている…外から見ると、そんな印象すらあるかもしれません。そんな中で、ただただ純粋に読書を楽しんでもらいたいと思っているのが、特別探索司書であるワルツさん。特別なものとなった「読書」という行為や「本」というものを通じて、様々な人間模様を1話完結形式で描き出して行きます。
 
 主人公はワルツさんということになると思うのですが、彼女は言わば象徴的な存在として描かれ、序盤は図書館に訪れる人々の物語が中心。後半になるとワルツさんの物語も描かれるわけですが、そこでようやく「ピリオド」とのつながりが明らかになるという。どこか人間らしさを感じさせない彼女の背景がわかることで、ようやく自分の中で彼女の位置付けがしっくりきて、物語を消化できた感がありました。
 
 大きな流れとしての時代背景がある割に、物語としてどこかに一心に向かっているという感はあまりなく、オチとしても弱いんじゃないかとも感じたのですが、一方で「いつまでも本は死なずに物語は紡がれる」というメッセージに照らし合わせれば、この終わり方が一番正解のような気も。事前に想像を膨らませすぎた分肩すかし感はあったものの、そういった前提で読めば普通にみんな良い話でした。


【男性へのガイド】
→大きな起伏がない所からも、女性の方が受け取りやすい物語構成なのかな、と思いました。
【感想まとめ】
→良い話でした。ただもしかしたら原作小説はこんなもんじゃないのかな、という予感も同時にあるのです。とりあえず、積んであった本の山から小説を探してきましょうか…。



作品DATA
■著者:紅玉いづき/楠田夏子
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS PLUS
■全1巻
■価格:619円+税


■試し読み:第1話

カテゴリ「Kiss Plus」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

ちょうど図書館で原作を見つけて読み始めようとしていたところでした
コミカライズもされているんですね
From: ~名もなきお * 2014/02/02 00:49 * URL * [Edit] *  top↑

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