葉月かなえ「好きっていいなよ。」(12)
確信なんてものはないけど
決めて
前に進むしかない■12巻発売しました。
高校1年から付き合いはじめた橘めいと黒沢大和は、3年に進級。将来を真剣に考えはじめるめいたちだけど、なにやら大和の様子が…。一方、新入生の双子、凛と蓮はめいやみんなになじみ、それぞれの想いが大きく動きはじめる…。
〜安定と不安定が入り交じる12巻〜 12巻発売しております。付き合って結ばれて、引き続き二人の仲は盤石。安定した二人です。二人の仲が恋愛絡みで危機に陥ることは、この先まずないと思われ、物語は「二人の成長」というところに専らスポットが当てられて来ています。今回も、二人にとっての“課題”が浮かび上がり、それに対してアプローチしていくという内容でした。
〜めいが彼のために動く番〜 これまでは、めいはどちらかというと受動的で、自ら誰かのために積極的に動こうとする人ではありませんでした。これまでの一番の頑張りってなんでしょうかね。あの文化祭のミスコンに出た事でしょうか。あれも彼女なりに頑張ったイベントでしたが、出るきっかけは周囲の推薦によるもの。彼女自ら全てを決めて…というアプローチではありません。それが今回、彼女は自ら動くことになります。
きっかけとなったのは、もちろん大和。「自分の進むべき道」「やりたいこと」を模索し、写真に手を伸ばしてみるも、イマイチ納得のいく写真が撮れず思い悩む彼を案じ、取った行動は…

めぐみにカメラマンを紹介してもらえないか頼みに行く
なんだかんだ長い間大和と付き合ってきましたが、めいが本当の意味で「彼のため」に行動したのって、何気にこれが初めてなんじゃないか、と思います。もちろん色々大和のためにしてきたわけですが、それはある程度答えが見えていたり(確実に喜んでもらえるとか)、彼への恩返しのような位置付けの行動が主。今回は、答えが見えない中で「なんとか彼の力になりたい」と、保身も何もなくただただアクションを起こすというもので、これまでの行動とは若干毛色が異なる印象がありました。
またすごいのは、彼女が頼りにしたのが、かつて恋のライバルであっためぐみであるというところ。この年頃(てかこの年頃じゃなくても)、一時でも恋で争った相手を頼りたいとは思わないんじゃないかなぁ、普通。でも彼女は、そんなことお構いなしにめぐみに一直線。きっとそんなこと意識するまでもなく、大和のことが心配で仕方がなかったのでしょう。

切羽詰まっためいは、想いがあふれて涙を浮かべてしまうのですが、彼女の一生懸命さが伝わってきて、グッときました。
最初の頃は「誰にも頼らない」といった姿勢がありありと見えていた彼女が、大好きな人が出来ることで、誰かのために懸命に行動することもできるようになるし、誰かを頼るということもできるようになるという。そして、相手がどんな状態になって受け入れるという、器の広さまで。これまでの歩みは非常にゆっくりではありますが、振り返ってみれば大きく成長していることに気づき、驚かされます。
〜良い身長差です〜 大和とめいがこんな感じではあるのですが、きちんと恋愛面でも物語の補強はあります。それが、前回から引き続いて、海と凛の二人。凛ちゃんは相変わらず強烈なキャラをしております。とにかくゴーイングマイウェイで、非常に人生が楽しそうです。傷を傷とも思わなそうな彼女が、ある種傷だらけの海に惹かれるというのは面白いですよね。なかなか噛み合なそうな二人ですが、12巻後半のツーショットの身長差が実に丁度良い塩梅で、「あー、この二人良いわ」と、妙に納得してしまったという(笑)
でも海はやっぱりめぐみが良いと思うのですよ。お互いを理解しあえる関係にあると思うんですけどねぇ。しかしめぐみは恋愛よりもモデル業に重きが。しかも海外へ行くということで、なかなか厳しいのかも。もし仮に凛とくっついたとしたら、モデルでも恋愛でも良い事尽くめで、幸せしか知らない羨ましいキャラになってしまうではないですか…!って所から、両取りってパターンはそんなにないと思うんですよね(葉月かなえ先生の作品に出てくるキャラは、ビターな経験を経てこそ魅力が増しますし)。それがモデルなのか、恋なのかは分かりませんが、どちらかでめぐみが笑ってくれていると嬉しいですね。
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