鈴木有布子「箱の中のいつかの海」
生と死は波のようやね
繰り返し
繰り返し…■実家の仏壇の片付けをしている最中に見つけたひいばあちゃんの手紙。二重になっている底を外すと、古い婚姻届と木の箱があった。婚姻届にある見知らぬ名前。それはひいじいちゃんのものではない。いてもたってもいられず、謎を探りにあかりは四国へ。遠い親戚の亮とともに、先祖の秘密に近づいていく…。
「星川万山霊草紙」(→
レビュー)などを描かれている鈴木有布子先生のBE・LOVE連載作です。とあるOLの、長期休みを利用した自分のルーツ探りの旅を描いた1巻完結もの。物語は、実家の仏壇を片付けているところからはじまります。片付けで見つけたのは、ひいおばあちゃんの名前が書かれた婚姻届。しかしそこに書かれていた相手の名前は、ひいおじいちゃんのものではなく、見知らぬ男性のものでした。賢妻で恋患う印象など一切ないひいおばあちゃんと、どうしても結びつくことの無いその婚姻届に興味が湧いたあかりは、そこに記された住所を頼りに、一路四国へ向かうのでした。しかしその先で出くわすのは、ひいおばあちゃんの名前を出すと顔をしかめる人たちばかり…。謎だらけの祖先の出自を、一つずつ紐解いていくのですが。。。というお話。

向かった先で出会ったのは、親戚にあたる男の人。どうやら彼も、色々と事情を知っているようで…。
祖父や祖母の出自が自分の思っていない所にあり、興味を持って調べ始めるも、そこでつきつけられるのは「裏切り者」や「気狂い」といった思いもよらない評判で…という流れは、最近だと「永遠のゼロ」が思い起こされます。あちらは孫が祖父のルーツを追い求めたお話ですが、こちらはひ孫が曾祖母のルーツを追い求めたもの。働き詰めから解放され、また男女関係で少し傷ついた直後のアラサー女子が主人公ということで、アプローチこそ似てはいるものの、描かれる物語は全く異なるものになっています。
今自分が存在しているということは、脈々と血が受け継がれて来たということに他ならないのですが、一般人の代重ねなど実にはかないもので、2代3代となるとそのルーツはわからなくなり薄れていくものです。私も祖父母はすでに他界しており、あくまで父母から伝え聞いた程度しか知らないのですが、確かに話を聞くとなかなか興味深いものではあるんですよね。例えば私の母方の祖父は富山の薬売りだったらしいのですが、薬売りに来た先で祖母に一目惚れし、長野に永住してしまったという。父方の祖父も割と惚れっぽい性格だったようで、どうやら私には女好きの血が色濃く流れているみたいです。少なからずその人の血が入っているわけですから興味も湧くもので、もし自分にも時間があったら、ちょっと調べてみたいものです。
なおこのお話が「物語」として成り立つのは、思わぬ「悪評」が先祖を取り巻いているからであって、その揺り戻しが感動につながるわけですから、実際に自分達がやってみてもこんな風にはならんのでしょう。大きな物語がそこにあるわけではありませんが、過去と現在をそれぞれ丁度良いバランスで描き展開させる所はさすが読んでいて安心感のあるところ。良いお話でした。
【男性へのガイド】→この物語に出てくるひいおばあちゃんに共感できる感性を持っていると、より感動は増すのだと思います。となると、やはり女性の方がそこは。
【感想まとめ】→無理なく1巻にキッチリ収め、最初から最後まで澱みなく読ませる安定感。大きな感動のあるお話ではありませんが、読み終わった後の満足感は確かかと思います。
作品DATA■著者:鈴木有布子
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■全1巻
■価格:580円+税
■試し読み:
第1話