
勇気をだせ
すべてはそこからだ
■誰かの勇気が私に、私の勇気が誰かにつながっている。
片想いの会社の先輩が姉と付き合いはじめ、諦めようとしてきた楡原。2人の結婚が決まり、式に出るために気持ちを殺し空港へ向かうのだが…。空港を行き交う見知らぬ4人が影響を与え合い、前に進んでゆく連作オムニバス!
「八潮と三雲」(→レビュー)の草川為先生の、大人の女子の恋物語。いやこれ、読んだときものすごく意外でびっくりしたんです。草川為先生というと、ファンタジー作品でヒロインも比較的若く元気…というイメージが強かったのですが、今作はガラッと変えて、働く女性、しかもどうにも素直になれない不器用な恋をする女性がヒロインとなっています。設定を見たとき、「メロディ連載かな?」なんて思ったのですが、どっこいレーベルはLaLa。ただし掲載誌はAneLaLaということで、つまるところCanCamとAneCanみたいな関係の増刊誌掲載でございました。増刊のキャッチフレーズはオトナガールに贈るってあるんですが、「オトナガール」ってなんなんでしょうね(冷静)
物語は4話構成。どれも世では「大人」と言われる社会人が主人公。自分の想いを圧し殺し耐える者、最初から自分の恋を諦めている者、遠距離恋愛ですれ違いばかりしている者、東京に来たけれどどうにも上手くいかない者…それぞれ抱えている問題は様々で、そして大人ゆえに動きにくく、歯がゆい。働いているゆえか、「そう、そういう時あるよね!」とか「いるいる、こういう人いる」みたいな場面がしばしば。草川為作品でこういう感覚を味わえるってのがとにかく新鮮で、非常に強く印象に残りました。

メインはやっぱり社内恋愛なわけですが、社内であろうと社外であろうと、大人の恋は面倒くさいのです。うん。
それでは気に入ったお話をご紹介しましょう。一番のお気に入りは1話目に収録されていた楡原さんのエピソード。会社でもしっかり者の楡原さんは、密かに会社の先輩・瀬戸さんに恋心を抱いていました。彼を追って入った会社のフットサルチームでの活動に、姉を連れて行ったところ、瀬戸さんと姉は一瞬で恋に落ちてしまった。トントン拍子に話は進み、二人は結婚することに。自分の気持ちを必死に圧し殺しつついた楡原さんですが…というお話。
同じ職場の先輩に恋するという所でそこそこ面倒なのですが、それに加えて彼には婚約者がおり、さらにその相手は自分の姉という辛いシチュエーション。けれども気丈な楡原さんは、決して自暴自棄になることなく、周りの求める“しっかり者”を演じ続けるわけですが、その姿が切ない。もういい大人なので、自分の気持ちに素直になって状況を壊すなんて行動に出れないわけですが、その心の消化の仕方が難しいのですよね。切り替えようとしたって、職場で毎日会ってしまうし、次を簡単に見つけられるほど、社会には“出会い”は溢れていない。この歯痒さになんとも共感したというか、「わかるポイント」が多くて良かったです。

泣きつく相手がいないことも、立ち直りを遅らせる一因に。
もうひとつお気に入りは、遠距離恋愛で最近ギクシャクなカップルを描いた第3話。付き合って5年で、かといって具体的な結婚話もなく、一方で親からはなんとなくプレッシャーをかけられるという、この焦り。この焦りが…!私も気がつけば眼前に三十路の壁が迫っており、こういうエピソードがなんとなく身に沁みるようになってきました。私は男だからまだ弱い方で、同年代の独身女性からこういう話を聞くことが増えて来た分、なんとなくこういうエピソードに対するアンテナが高くなっているのかもしれません。
【男性へのガイド】
→視点が女子で、またエピソードも働く女子ならではという感が強いです。とはいえ身につまされるエピソードもあり、男性が全くダメかというと、そういうわけでもないかと。
【感想まとめ】
→大人感があって落ち着きつつも、草川為先生が描いているということでもの凄く新鮮味のあった本作、オススメです。
作品DATA
■著者:草川為
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:アネララ
■全1巻
■価格:429円+税
■試し読み:第1話