
今日も一日がはじまっている
■太平洋戦争末期の昭和19年、名古屋。優しい父と強い母、そして四姉妹の女系家族。木村家次女・あいは、国民学校高等科1年生。青春真っ只中にいるあいの関心は、かっこいい車掌さんに出会ったことや、今日の献立のこと。自分が戦争に参加しているなんて気持ちは、これっぽっちもなかった―――。しかし、米軍にとって名古屋は、東京や大阪と並んで重要攻撃目標だった。少女・あいにとって、戦争とは、空襲とは、空から降り注いだ焼夷弾の雨とは、いったい何だったのだろうか。少女・あいの目を通して描かれる、名古屋大空襲の真実。
このマンガがすごい!Webの8月の月間投票でこの作品に入れていたのですが、レビューをしていなかったのでここでお届けです。というか最近そういうの多いですね、いかんいかん。本作はオンナ編で1位でした。全体的に小粒な感のあった月だったのですが、その中で本作は存在感を放っており、1位も納得です。
ということで、ご紹介するのはBE・LOVEで連載しているおざわゆき先生の「あとかたの街」です。みなさんは名古屋大空襲ってご存知でしょうか?私はこの作品を読むまで全く知らなかったのですが、本作はその時代に生きた一人の少女の目を通して、実際にあった名古屋大空襲を描き出します。舞台となるのは昭和19年の名古屋。太平洋戦争の戦況も苦しくなり、国民たちもみな苦しい生活を余儀なくされていた頃。青春真っ只中の学生であるはずのヒロイン・あいの日常にも、戦争の影が着実に忍び寄って来ていました。校庭では野菜を育て、授業では竹槍を使っての軍事訓練をし、やがて授業はせずに軍事工場での労働を強いられるように…。

戦時中とはいえ、やっぱり欲はあるし文句も言いたくなる。友達もいるし、基本的な部分は現代の女の子たちと変わりはないのです。
本作は、実際に名古屋大空襲を体験したおざわゆき先生のお母さんから聞き書きする形で生まれています。ちょっと前に「聞き書き」という活動が話題になった記憶がありますが、マンガとして残すという形もあるのですね。聞き書きは単純に話を聞くだけでなく、聞いたことを後世に伝える異世代コミュニケーションも目的の一つですので、若い世代が受け取りやすい形で形に残すというのは、一つ有効な手なんじゃないかと思いました。
どの作品も基本的には史実に沿って描かれていると思うのですが、本作はその時々にヒロインが感じた事も生の声が元になっていますので、その辺りが実にリアル。戦争に参加しているなんて実感はないんですよね。普通に一人の女の子で、やりたいことが色々ある。1巻は実際に空襲が始まる前の様子が描かれるのですが、ベースは生活が苦しいながらも楽しんで毎日を生きようとする少女のありふれた日常の風景なんです。そしてそんな中にふと戦争というものを強く意識せざるを得ないような出来事が挟み込まれるのですが、それがやけに生々しくて怖いのです。絵柄も可愛らしいんですけどね。

戦況が悪化するごとに、戦争というものがより間近に自分の目の前に迫ってくるように。ここだけを抜き取ると、ブラック企業とかぶるような印象がありますね。この時は、国自体がそういう状態になっていたという。
主人公のあいの家は女系家族ということで、兄弟が出兵しているといったことはありません。大黒柱の父も名古屋に残っています。そのため残された女の悲しみ的な側面は描かれません。その辺もちょっとありがちな戦争ものとは異なる所でしょうか。男がいないということで、色々と言われることもあるんですよね。こういうのもあまり知ることのなかった事実だったりします。
2巻ではいよいよ名古屋大空襲に巻き込まれていきます。1巻とはまた違った様子が描かれると思うのですが、非常に続きが気になります。色々な人に読んでもらいたい、そんな作品でした。
【男性へのガイド】
→大人も子供もお姉さんも。たくさんの人に読んでもらいたい作品です。
【感想まとめ】
→戦争ものって読むときにエネルギーを使うのですが、本作はそこまで。日常と戦争の描かれるバランスのためか、すんなり読みやすい内容となっていました。オススメです。
作品DATA
■著者:おざわゆき
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻
■価格:580円+税
■試し読み:第1話