
つかまえたいな
きみを100匹
■見ていてください。これが金魚をすくうということです。
エリート銀行マン・香芝誠は仕事上でミスをして、東京本社から大和郡山支店に飛ばされた。ささくれた心をむき出し歩いていた香芝は金魚問屋に偶然足を踏み入れる。地元住民たちが”金魚すくい”を楽しむ光景を、見ていた香芝だったが……?
大谷紀子先生のBE・LOVE連載作でございます。表紙とタイトルからもわかる通り、金魚すくいを題材としたお話です。物語の舞台となるのは、金魚すくいの全国大会も開かれるという金魚すくいの聖地・大和郡山。主人公は、エリート銀行マンであったものの、仕事のミスでこの街に左遷されてきた香芝誠(25歳)。そんな失意に暮れる彼の新居の前にあったのが、金魚屋さん。最初は全く興味もなく苛立っていた香椎でしたが、一人の女性と出会ったことで一変、金魚すくいに情熱を燃やすようになります。入口はなんとも不純なもの。けれどもやがて金魚すくいの面白さに気づいていき…というお話。

ヒロインとして描かれる、生駒吉乃さん。若い男性たちみんなが憧れ、そして撃沈している高嶺の花です。
金魚すくいと言って想像するのは、まずはお祭りでの光景でしょうか。個人的なイメージは、一匹すくうのも困難で、最後の方になるともらえたりする(で、結構すぐ死ぬ)イメージがあります。いわばレジャーとしての、情緒的な舞台風景の装置といった意味合いが強いのですが、本作ではそういった文化的な描き方は主ではありません。描かれるのは、数分の間に何十匹もすくうような、競技としての”金魚すくい”です。
映像で見たことがあることもいるかもしれませんが、全国大会の光景って異様ですよね。ポイが破れることもなく、次々とすくい、お椀に金魚がいっぱいになるっていう。この物語に登場する人たちは、基本的にそんな人たちばかりです。そんな中に飛び込んだ、元エリート銀行マン。はじめは拒絶していた金魚すくいに魅せられ、徐々にその才能を見せていきます。
物語の性格的には、スポ根ものに近いものがあり、誤解を承知で例えるならば「金魚すくい版の『ちはやふる』」といったところでしょうか。掲載紙も同じBE・LOVEということで、そのラインを継承する作品に位置づけられるかと思います。とはいえ主人公は高校生ではなく、20代中盤の男性ですから、当然熱量や作品展開のアプローチは異なり、きちんと差別化は出来ております。また金魚ということで、華やかですよね。色こそマンガだとわかりませんが、脳内で補色したり、シルエットだけでも涼しげで良いです。

バトルマンガ感。こんな感じのテンションで描かれます。この人がラスボス的でもあり、師匠的でもあるおじいちゃんってとこでしょうか。
社会人ということで、当然恋愛方面にも期待したいところなのですが、清楚な美女に心踊らされ虚言を吐くなど、主人公にはどこか童貞くさい一面があり、トキメキイベントはあまり期待できないかもしれません。また競技系のマンガには不可欠なライバルキャラも多数登場。いずれもキャラが立っており、今でこそキャラ過多な感じはありますが、話数が重なってくるごとに魅力も増してくるものと思われます。しかし金魚すくいのプレースタイルとか、よく分けられるなぁと。
物語は、主人公が本格的に金魚すくいの世界に足を踏み入れようとするところでおしまい。これから彼がどのように成長し、どのような戦い方をしていくのか、非常に楽しみです。金魚すくいということで色物感もありますが、題材としてしっかり活かしているのでご安心を。とても面白い作品が登場してきました。オススメです。
【男性へのガイド】
→スポ根の気がある作品は、男性でも楽しみやすいかと思います。競技系作品を読んだ時に覚える震えるような感覚こそないのですが、これからそういう所も出てくるかも。
【感想まとめ】
→面白かったです。正直出落ちかと思っていたのですが、結構本格的に描かれていて、続きが非常に楽しみです。
作品DATA
■著者:大谷紀子
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻
■試し読み:第1話