
青春が季節のように また巡ってきたとしても
同じ春は二度とこない
■今カノと元カレの間でワタシは揺れてる
女子高生・三澄糸は三年生になった春、親友の加古川莉緒に告白されて付き合い始める。女の子同士だけど「好き」をかみしめる二人。そんな中、新しく赴任してきた非常勤講師の男性を見て糸は驚く。彼は、かつて糸と付き合っていた年上の幼なじみ・佐倉巴だった……。心ざわめくラブ・アンサンブル第1巻!
深水チロリ先生の、コミックスピカ連載作です。あらすじは冒頭の通りで、ヒロインは普通の女子高生・糸。そんな彼女は女子高に通い、今好きあっている相手は同じクラスの女の子・莉緒です。ささやかな幸せをかみしめていた中、非常勤講師として赴任してきたのが、中学生の時に付き合っていた幼馴染の男の人・佐倉。冷たくフラれ、軽くトラウマとなっていた相手が現れたことで、糸の日常は不安定に揺れ始めます。どういう魂胆なのか、ヨリを戻したいと思っているように受け取れる彼の言動の数々に糸は動揺し、そんな彼女の様子をつぶさに感じ取り、焦り同じく動揺する莉緒。二人の間で揺れる、難しい年頃の女の子の心情を、繊細に描き出します。

こんな百合っぽいシーンも。ごちそうさまです。置かれているシチュエーションとは裏腹に、ヒロインの糸はその年なりの繊細さを持っている、普通の女の子なのですよね。気が強く誤解を受けがちな中、一番の理解者である莉緒に全幅の信頼を置いています。
選択肢は“現状維持で女の子同士”か、“元さやで教師と生徒”か、というどちらもタブーという複雑な状況。こういう設定はメジャーな少女漫画では難しく、スピカのような媒体ならではという感じがしますね。ヒロインの気持ち的にはもちろん今の相手を選択したいと思っており、何もしなければ変化は起こるはずもないのですが、そうは問屋がおろしません。偶然絡みが生まれてしまうだけでなく、佐倉は明確に糸に対して好意を抱いており、あれやこれやと糸との接点を作ってきます。
さらには二人の過去を糸の母親がなんとなく気づいており、不必要に二人を会わせようとするなど、まぁ何かと糸の思惑とは逆の方向に流れるという。またそんな状況に莉緒は焦り、自ら自滅する流れもあるなど、決して二人の関係は盤石とは言えなくなってきます。加えて物語が少し進むと、大学時代の佐倉の元カノが臨時講師として学校に出入りするようになり、関係は一層複雑に。こんな一か所に集中するかいというツッコミは置いておいて、複雑ながら非常に面白い様相を呈してきます。

頭では「相手にしちゃいけない」とわかってはいても、気持ちがどうしても反応してしまう。
読んでいて思うのは、とにかくヒロインに優しくない展開が続く、ハードモードな物語だなぁということ。ヒロインにも色々と考えがあるのですが、それ以上に周囲の大人たちの意思が強く働き、それに抗いきれずに翻弄されてしまうというきらいがあります。この年頃の女の子が抱えるには、あまりに大荷物で、潰れてしまわないか心配になるくらい。何もしなければこのまま莉緒と…という路線になるのですが、周りがそれを許さない状況に追いやり、結果的に明確に糸の意思をもって「決断」しなければ状況は打開できないのです。そのため読んでいて一切気持ちよさはなく、むしろモヤモヤとしたものが残る後味の悪い類の物語にも思えるのですが、それを余りある繊細な雰囲気で補い読ませてしまう、絶妙なバランスの上に成り立っている作品と言えましょう。
どのキャラも脆さを抱えているタイプに思われ、実に扱いにくそうな面々が揃っていますね。そんな中唯一の良心とも言えるのが、教師の惣田先生でしょうか。最近の若者然とした佐倉にも根気よく付き合い(巻き込み)、彼の気持ちに気づきつつ、彼の元カノを学校に呼び寄せるという野次馬根性の塊(あれ、この人もダメな人だ……)。登場回数が多い中で、唯一複雑な輪の中に入っておらず、ある程度冷静に状況を見れているという安心感があるからですかね、この人見るとホッとするんです。ほかの人たちはバイアスかかってて、どうにも。これ、読者の置かれている立場によって、肩入れするキャラが相当違いそうで面白そうですね。
【男性へのガイド】
→百合的な要素は百合男子への訴求効果は抜群では。普通の恋愛ものとして見ても、こういった繊細な雰囲気が好きな方はそれなりにいると思われ、設定に抵抗がなければいけるかと思います。
【感想まとめ】
→いかにもマンガ読み受けしそうな内容だなぁと読んでいて思ったのですが、あんまり周囲で反応がないような気がするのは気のせいでしょうか。オススメです。
作品DATA
■著者:深水チロリ
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:BIRZ COMICS SPICA
■掲載誌:コミックスピカ
■既刊1巻
■価格:630円+税
■試し読み:第1話