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Tag [新作レビュー] 2015.02.10
1106472774.jpg鈴木有布子「ひとふれ」



だから響子さん
ぼくのこと
好きになってよ




■美人でピアノの腕もいいのに、自己評価の低い音大生・佐藤響子は、担当教官の紹介で出張ピアノ講師のアルバイトをすることに。教え子は超名門校に通う優秀な頭脳と、高いコミュニケーション能力、イギリス人の美しい母似のビジュアルを持つ、自信に満ち溢れた少年・能登瑛流(中2)。自分と真逆な属性の年下の教え子にコンプレックスを抱く響子。今まで派遣されてきた講師を次々クビにしてきたと言う瑛流に、(恋愛的な意味で)気に入られ、猛アタックされはじめて……!?
 鈴木有布子先生のアヴァルス連載作です。鈴木先生も色々な媒体で描かれており、当ブログでも何作がご紹介しているのですが、本当に作品が途切れないですね。さて、本作ですが、美人音大生と生意気中学生の凸凹ラブコメディとなっています。主人公は20歳の音大生、佐藤響子。美人で、優秀な生徒しか担当しないという宇佐美先生が講師を務める実力派と、周囲からは憧れのまなざしで見られている彼女ですが、仕送りがストップされバイトで生活費と学費を稼ぐという苦労人。さらに先輩から言われた一言が原因で、現在ピアノは絶不調という状況。頼りにしていたバイト先が潰れ、新しい働き先を探していると、時給の良いピアノ講師のバイトを紹介され、引き受けることになります。行った先にいたのは、豪邸に住む将来有望な中学生の男の子・瑛流くん。彼に恋愛的な意味で気に入られてしまった響子は、以来彼の超積極的なアプローチを受けることになるのですが…というお話。

ひとふれ
年上らしく毅然とした態度で接しようとするも、生意気瑛流くんに響子はたじたじ。美人ながら恋愛にはオクテなようで、日々を生きるのに精一杯です。


 年の差の禁断ラブという感じのあらましですが、鈴木先生のこれまでの作品からも読み取れるように、決して恋愛一本で展開されるわけではなく、自身が抱える悩みなどを解決しカタルシスを得るというような構造の作品になっています。本作で言うと、ヒロイン・響子の自己評価の低さが軸となります。自己評価の低さを改めるには、他者からの承認や成功体験などが必要となってくるわけですが、その役目を果たすのが瑛流くんというわけです。

 講師たちを次々にクビにしてきたお金持ちで生意気な男の子というと、何やらとんでもないクソガキが登場しそうな感じを受けますが、別にそんなことはないです。講師が気に入らないとクビしていたのは、瑛流くんの母親で、彼自身は特にこだわりはない様子。ただ自分自身に自信があるという所はゆるぎなく、強気に響子にアプローチをしてきます。けれども経験豊富というわけではないので、積極的に想いを伝えるという以外に打つ手はなく、なかなか相手にしてもらえません。登場時こそ手ごわそうな印象を受けたものの、中盤以降は「瑛流がんばれ!」と応援する気持ちになっていました。

 後半には瑛流の友達たちも登場し、比較的にぎやかな様子に。1巻完結でボリュームは少ないながら、そうした脇役たちによってメイン二人の背景を補強し、しっかりと地に足ついた物語となっています。みんな変わり者なんですけどね。


【男性へのガイド】
→生意気な年下男子がお姉さんに必死に食らいつくっていう設定は果たしてどうなんでしょう。
【感想まとめ】
→登場人物が少ないながら、到達すべきゴールに向かうにあたって必要な要素を落とし込み、しっかりと経由してから物語は完結と、読んでいて非常に安心感のある内容となっています。大きな感動や、心ふるえるロマンスがあるわけではないのですが、読み終えて一つ温かいものが心の真ん中に浮かび上がり、前向きな気持ちになれる作品です。


作品DATA
■著者:鈴木有布子
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:アヴァルスコミックス
■掲載誌:アヴァルス
■全1巻
■価格:571円+税


■試し読み:第1話(pixiv)

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