
私は
ここにいるよ
■事故で記憶喪失となった「青山月子」は以前の性格のように振舞おうとするが、空回りの連続。転校してきた加賀美くんに対して、月子は興味を示したようで……!?記憶喪失×ほっとけない男子が織りなす物語。
「藤代さん系」(→レビュー)の湯木のじん先生の新連載です。今度のタイトルは「青山月子です!」と名前を前面に押し出したものとなっているのですが、藤代さん系といい、タイトルに名前を使うというのが通例なのでしょうか。なんてそんなことはさておいて、内容のほうをご紹介しましょう。
主人公はタイトルにもある通り、青山月子さん。高校に入学して早々に交通事故に遭い、しばらくの意識混濁の後に記憶喪失となって目を覚まします。何も思い出せないまま再び高校に通い始める(留年して高1から)のですが、過去を全く思い出せないので、親や友達だという人たちの言う「青山月子」像を再現しようと頑張ります。けれども伝え聞いていた「優しくて明るくてポジティブ」という性格は全く再現できず、空回りの結果周囲からは奇異の目で見られるようになります。そんな中に現れた、転校生の加賀美くん。ひょんなことから彼に興味を持った月子は、半ばつきまとうようにして彼と仲良くなるのですが……というお話。

加賀美くんはあまり笑顔は見せないですが、笑ったときはとっても優しい。受け入れられてるなぁという感じのする、素敵な男性です。普段厳しめですけど。
記憶喪失のヒロインが、記憶喪失のままに学園生活を送っているという、なかなか突飛な設定の作品です。記憶喪失後の月子は感情の起伏に乏しく、他人の感情も今一つ読み切れないといった、ジト目デフォのローテンションな女の子。そんな彼女が周りの求める「明るくて優しい青山月子」として振舞おうとしても、無表情&棒読み&空気読まないタイミングでの仕掛けと、裏目に出るばかりで周りとの距離は遠ざかっていくばかりです。一方でそういった状況になっても本人は無自覚で全くダメージを受けていないという強さも見せるという。詰まる所、人間関係のすべてにおいて鈍感になっているという感じです。そんな彼女を放っておけないのが、今回相手役となる加賀美くん。別に優しいタイプの男の子ってわけではないのでしょうが、自分を慕ってくれている女の子がふらふらとしていたらどうにも気になるもので、いつしか保護者のような立ち位置に収まります。それが結果的に良い方向に働き、彼自身はクラスでも慕われるようになったりも……。
月子は記憶を戻したいという欲求はあまりなさそうで、自然に思い出すのに任せている感じがあります。最終的に戻るのかはわかりませんが、加賀美くんとの関わりのなかで少しだけ思い出す瞬間があったりと、最終的には戻る方向に倒れるのかもしれませんね。ともあれ二人の関係構築は、「誰も承認してくれない記憶喪失後の自分を唯一受け入れてくれる存在」としてのヒーローですから、そうなるのはあったとしてもだいぶ先なのでしょう。面倒見の良いヒーローというと語弊があるかもしれませんが、そういう相手役がお好きな方はまず読んで間違いない作品になっているかと思います。
個々人の背景や性格は全く異なりますが、友達を増やしたいと願うもののその挙動で裏目に出て孤立しており、そんなヒロインを人気の男の子が臆することなく接し、その他の人たちとも関わりを持つようになる……というのは、同じ別マで連載している「君に届け」の爽子と風早くんを想起させます。こちらはもっと閉じた関係で、かつ記憶喪失という背景がある分より根深い問題を抱えてはいるのですが、1巻読んだ感じを受けると、加賀美くんは第二の風早くんになり得るのではとちょっと思いました(優しさの度合いは雲泥の差ですが、ベクトル的には一致してる)。無条件の承認ってのは、やっぱり読んでいても嬉しくて泣けてくるもので、この手のヒーローにはめっぽう弱いんです、私。

ちなみに月子も初期の爽子っぽい雰囲気はあるのですが、変なテンションで感受性に乏しく人間関係に不器用という意味では、「ラストゲーム」の九条さんのイメージの方が近いかも(でも上の画像見ると全然違いますね…!)。ちなみに学年3位の秀才で、見た目も可愛い方という設定でございます。
記憶喪失のヒロインに対し、周囲の面々も親も冷たいという状況はかなり辛いはずなのですが、ヒロインがとにかく鈍感なので、そういった感じがあまり表に出てきません。なので設定の割に1巻はほのぼのした印象がありました。もちろんシリアスなシーンはあるのですが、突飛な設定の割にはかなりオーソドックスな男女関係の構築図をなぞっています。掴みとしてはこのぐらいでOKで、今後時間をかけてより深い所(暗いところ)を出していけば良いのかなと思います。
【男性へのガイド】
→他の少女漫画比になりますが、キラキラしすぎていない分読みやすいんじゃないでしょうか。変なヒロインですけど。
【感想まとめ】
→流行るかはわかりませんが、個人的には非常に好みな作品でございました。オススメしたいです。
作品DATA
■著者:湯木のじん
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■既刊1巻
■価格:400円+税
■試し読み:第1話