
誰にも語ったことのない
私だけの海の話
今からあなたに話します
■ここはオシャレな人魚たちを中心に、それを守る兵隊、そして魚たちが暮らす海。厳しい環境ではあるものの、みんな賑やかに、とても楽しく暮らしていた。そんなある日、一人だけしかいない兵隊が死んでしまう。そのため、新しい兵隊が必要に。その兵隊を選ぶように命ぜられたのは、若い人魚・コーラル。彼女が新たな兵隊として選んだのは、まだ幼い少年だった
という人魚のお話を語る、入院中の女の子・珊瑚がヒロイン。珊瑚とコーラルという名前から分かるように、語られる物語のヒロインは、珊瑚自身がモデル。そして、彼女が選んだ兵隊は、先日亡くなった、同じ病院に入院していた男の子がモデルになっています。入院中で、かつ家庭環境に問題あり(母親が出ていった)ということで、語られるお話は決して夢や希望のみに満ちた内容ではありません。根源にあるのは、彼女の存在意義みたいなもので、その現状や欲求が、ダイレクトに物語に影響してきます。少女の心を、直接表現するのではなく、空想された物語から読み解いていくというのはなかなか新鮮。比率的には、物語8:現実2ぐらいで進められ、このバランスの取り方も絶妙です。

珊瑚の語る物語は、彼女自身の心を写し出す鏡になる。
幼くして、様々な悩みを抱えるヒロイン・珊瑚。それ故に、時折子供には思えないような発言や物語の展開が。たとえば彼女はサメが好きなのですが、その理由が、「沖の海の事故で漂流したときに、どうせ助からないなら、苦しみに止めを刺しに来てくれるサメはヒーロー」だ、と。この考えも彼女の本源的な想いから来ているわけですが、その要因というのが完全には明らかになっておらず、まだまだ引っぱれそう。
すくすくと快活に育った子の考える物語は、きっと希望に溢れた明るいストーリーになっているのでしょうが、それだとテーマとして成り立たちません。心に傷のある珊瑚紡ぐ物語だからこそ、意味と深みをが与えられる。珊瑚は少しかわいそうな気がしますが、作品を考えると仕方ないのか。表紙だけみて単純なファンタジー作品だと思った方は、読んだ時に、この意外な内容に驚くでしょう。決して子供向けの明るいお話ではないので、むしろ大人が読んでこそって気もします。
【オトコ向け度:☆☆☆ 】
→それなりに読みやすいんじゃないでしょうか。モチーフが、病弱な少女+人魚と、女性が好みそうではありますが、それだけではないので。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→好きな人は好き。表紙だけ見て判断してしまった人は、もう一度内容を吟味してから検討してみてください。
作品DATA
■著者:TONO
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:眠れぬ夜の奇妙な話コミックス、朝日ソノラマ
■掲載誌:ネムキ(2007年11月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:600円+税