
じゃあ
何から話そうかな
■「彼」の一番そばにいたのは誰?
ある人は彼に焦がれ、ある人は彼の境遇を想って泣いていた。語り口や記憶、時間の流れや経験によって異なる「彼」の姿。新鋭・いがわうみこが、笑いと涙で贈る、ある男の物語……
「虹の娘」(→レビュー)や「ちぇみと三兄弟」(→レビュー)を描いているいがわうみこ先生のスピカでの連載作。まぁクセの強い内容です。元々強いんですけど、本作は「え、同人じゃなくて商業なのこれ?」って感じの、インディー感溢れる作品に仕上がっていました。
物語は一人の男を中心に描かれます。彼の名前は須田春義。彼は父の再婚によって、継母とその連れ子と暮らすことになるのですが、その継母に虐められ、周囲にもそれが伝わっているという状態。父親は鬱になり自殺してしまうといういわゆる「不幸な境遇」なのですが、そんな彼を取り巻く人たちの、彼をめぐる物語が11つ描かれています。

登場人物・視点は物語ごとに異なり、様々な境遇の人たちが春義を見つめることになります。一人は血の繋がらない妹であったり、一人はただのご近所さんだったり、一人は幼馴染だったり。それぞれから見る春義像は当たり前ですが異なっていて、彼に対して抱く想いや行動も様々。彼に積極的に近づこうとする者や、彼を遠くから見つめるだけの者、見つめることすらせずに思いだけを馳せる者……そこにいがわうみこ先生らしいクセというか毒のあるキャラの味付けによって、非常に独特の雰囲気を感じることができます。
とにかくどのキャラもクセのある人物たちで、一気に読むと胸焼けするような味付けの濃さです。ただどれもみんな、ありがちな“ダメな部分”“変な部分”を肥大化させたようなキャラとなっており、どこか人間味溢れているから不思議。多くの人物たちがある種身勝手に自分の想いを相手に押し付けるのですが、人間関係なんて大なり小なりこんなものなんだろうなぁという気も。根底にあるのは、「結局相手のことなんかよくわからない」「人間というのはこうも無責任で勝手なものなのよ」というメッセージなのかなと思うのですが、最後の最後でとんでもないアホキャラによって救いが得られており、同時に「相手のことなんてわからなくても幸せになれんのよ」なんて言われているような気がしないでもありません。全然違うかもですが。

ぶっ飛んでるってのは、こんなの。
元々描線が濃いいがわ先生ですが、本作はそれにもまして濃いです。イメージ的には一昔前のホラーマンガとか、そういう。つのだじろうとかこんな感じじゃなかったっけと思ってみてみましたが全然違いました。キャラも絵も独特で、なかなかとっつきにくそうな内容ですが、ハマる人はハマりそうな印象です。
【男性へのガイド】
→基本女性視点なので、それがどう出るか。クセの強さやアホらしさは面白いと感じる男性多いと思います。
【感想まとめ】
→これまでにましてクセの強い内容でどうしたものやら。面白かったのですが、同時に不思議なしこりみたいなものが残る読後でした。
作品DATA
■著者:いがわうみこ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:スピカコミックス
■掲載誌:スピカ
■全1巻
■価格:660円+税
■試し読み:第1話