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Tag [続刊レビュー] 2015.04.03
1106515069.jpg東村アキコ「かくかくしかじか」(5)



描け



■5巻発売、完結しました。
 まんがの仕事に邁進する明子。余命四ヶ月を宣告された日高先生がアキコに伝えたかったのは……。まんが家・東村アキコのドラマチック・メモリーズ万感胸に迫る最終巻!


~完結とマンガ大賞~
 5巻が発売され、完結を迎えました。そして同時に、マンガ大賞受賞の発表が。自叙伝的な作品が受賞するのは初めてかと思うのですが、東村先生はこの手の賞レース的なものはやはり強いですね。ムック本でも上位常連で、毎年見ないことがないぐらいです。しかしマンガ大賞は振り返ってみると女性作者が強いですねー。各年ではそんなに意識していなかったのですが、歴代受賞作を一気に見ると、その隔たりがよくわかります。


~誰かの死と向き合うこと~
 4巻ラストでガン告知があり、1巻を使って完結となりました。どんな濃厚で感動的なやりとりが待っているのかと思いきや、おそらく読んだ人は皆思ったのではなかろうかと思うのですが、案外希薄な接触のみで終わっていました。これをどうとらえるかは読み手の人たち次第ではあるのですが、自分はどちらかというと好意的というか、実にリアルに感じを受けたというか(実話なんだから当たり前ですけど)。自分自身の経験をどこかで思い起こしている部分があったのかもしれません。私も祖父が亡くなった際、すでに上京していたのですが、振り返ってみて驚くほど会いに行かなかったし、普段から気にも留めていなくて。で、久しぶりに見に行って弱っていて驚くという。そしてお葬式に行っても悲しいんだけれどもなんだか実感が沸かないし、お葬式が終わって東京に戻ってきたら何もなかったかのように日常に戻れるし。そんななかで、あるときふと思い出して、「あの時ああしてあげれば良かった」なんて後悔の念に駆られたりするものです。

 普段そういった想いは吐き出されることなく時と共に消化されていくのですが、本作はそれを作品として送り出す形で体現しています。5巻についてはコメディだ人情ものだなんていう印象はことに希薄で、とにかくモノローグという形で表現される、作者さん自身の後悔や自責ばかりが印象に残りました(作中でも触れられているように、後半は殆ど会っていないのでそうならざるをえないという面もあると思いますが)。なのでちょっと最初に想像していたところとはちょっと着地点が異なったような感じはあるのですけれど、非常に腑に落ちる結末でして、大波の感動はなくとも心の端に響くものがある素敵な作品だったと思います。


~あの時の気持ちについて~
 そうそう、過去のレビューで「ここでこう思った気持ちがよくわからん」と言っていた、大口入金があった口座残高を見たときに悔しさを感じたというあのエピソード、5巻で真相が語られていました。


かくかくしかじか
再度こうして描くという事は、そこについて教えてほしいという要望がそこそこあったってことなんでしょうか。色々と考えを巡らせていたのですが、こういうつながりがあっての「悔しい」だったのですね。

 ……と、なんだかどう締めたらよいかわからなくなってしまいましたが、5巻完結というちょうど良いボリュームと、笑いあり感動あり切なさありの濃厚さとで、改めて強くオススメしたい作品です。もし未チェックの方がいましたら、是非とも買ってみてはいかがでしょうか。4月で環境が変わる方もいるかと思いますが、今一度ちゃんと生きてみようと前向きな気持ちになれる作品でもありますので、ぜひ。


【関連記事】
作品紹介→東村アキコのルーツが赤裸々に:東村アキコ「かくかくしかじか」1巻
2巻レビュー→後悔先に立たず…なのですが:東村アキコ「かくかくしかじか」2巻
3巻レビュー→思い出話と“悔しさ”の源泉:東村アキコ「かくかくしかじか」3巻
全国のタラレバ女に捧ぐ!:東村アキコ「東京タラレバ娘」1巻

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。