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2009.04.28
31702804.jpg氷堂涼二「TEMPUS:QUOVADIS」(1)


「いっくぞ!スルタン!魔女の城めざして!」
「それはまだ早いだろう?」
「あっそうだよ!仲間を探しにいかなくちゃ!
魔法磁針が指す方角へ!」



■5巻発売しました。
 文明の絶頂期にあった星の半分を滅ぼした「Overture」。人々は、何もかもを失った。そんな、科学も、宗教も、人の心さえ失われたような荒れた世界を、魔術師・ラシードと幼い少年・ニルスは馬のスルタンと共に駆ける。彼らの目的は、「時の魔女の城」に行くこと。そして、そこへ行く仲間を見つけること。その道筋は、魔法磁針が指し示してくれる。人々の目に、魔術が顕現しはじめた時代、旅の途中で彼らを待っているものとは   !?

 星の半分を滅ぼした「Overture」。そんな中、「時」のしるしを持つ魔術師・ラシードは、師の導きによって、次の世界を目指す。そして出会ったのが、孤独の森にいた少年・ニルス。最終目標である「時の魔女の城」への道程を、彼の持つ魔法磁針が導いてくれます。それは一本道にはなっておらず、時に寄り道をさせ、仲間との出会いすらも導いてくれる。そんな彼らの旅を描いた、長編ロードファンタジーです。


tempus quovadis
魔法磁針がある程度の方向性を定めてくれるので、進行ゆっくりで全体像が見えなくとも、イライラ感なく読むことができる。


 「Overture」によって荒れ果てた世界という舞台設定。そして、「時の魔女の城」を目指すというゴールの提示が、早い段階でなされます。そして描かれるのは、そこへ辿り着くまでの道のり。敵と闘い、彼らを取り巻く状況を明らかにしていき、また仲間と出会う。これからもわかるように、踏襲しているのはRPGのそれ。極めてオーソドックスなスタイルを取っていますが、舞台設定がかなり重厚で、また話の進行もゆっくり目で丁寧に描かれるので、飽きがこない上に読み応えがあります。全体像は明らかになってはいないものの、一応の目標が提示されている上、仲間との出会いというイベントを用意することで、物語を緩ませず引っぱり続けます。この作り方は上手い。ただ重厚な雰囲気と、それに伴うように進行が遅めと、ファンタジー好きでないと苦しい部分はあるかもしれません。

 ファンタジー作品に積極的に手が伸びないという方はスルーしても良いと思います。ただファンタジー好きの方であれば、この作品は読むに足る内容になっていると思いますよ。


【オトコ向け度:☆☆☆  】
→基本は女性向け。男性でも読めますが、女性キャラが少ないのでちと寂しいかな、と。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→重厚なファンタジーが好きな方は。物語に深みがあるという意味ではなく、厚い造りになっているよ、ということです。


作品DATA
■著者:氷堂涼二
■出版社:新書館
■レーベル:WINGS COMICS
■掲載誌:Wings('05年12月号~連載中)
■既刊5巻

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