このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] [新作レビュー] 2009.05.15
hanahakiotome.jpg松田奈緒子「花吐き乙女」(1)


どうやらあたしは
死んだらしい
花の盛りに
死んだらしい



■花吐き病。嘔吐中枢花被性疾患の通称。片想いをこじらせると、花を吐く、ただそれだけの奇病で、吐かれた花に触れることで感染する。潜伏と流行を繰り返し、室町時代から現代まで繰り返し続いている。症状が症状なだけに、健康上の被害はなくとも、普段の生活に支障を来してしまう。いまだ有効な治療法は見つかっておらず、両想いによってのみ完治する。

 このお話は、そんな花吐き病に罹った者たちと、病について研究する若手教授(准教授?)の日々を綴った、笑いあり、感動ありのファンタジーコメディです。花吐き病には、男女関係なく罹り、その治療法は両想いになることだけ。吐かれた花に触れることでのみ感染し、恋を意識しなければ、発病することはありません。設定だけ見ると、ファンタジックな設定を用いた、耽美で切ない物語のように思われるかもしれませんが、実際は違います。たしかに耽美さは垣間見えますが、本質はコメディ。花を吐くといっても、そんな綺麗なものじゃなく、「ゲロ」的な感覚で描かれます(花自体はとってもキレイですが)。そんな花吐き病に罹った人たちと、病を研究する変わり者のイケメン教授、そして彼をとりまく面々を登場させ、話を動かします。


花吐き乙女
この作品のメインキャラ・種堂教授。恋に関する病について研究しているが、彼自身は恋をしたことがない。


 昨年「少女漫画」で話題を呼んだ、松田奈緒子先生の新作です。「花を吐く」という、一見ものすごい設定ですが、これが不思議としっくりきますね。表紙とタイトルから、コメディタッチの内容を想像する方は少ないんじゃないでしょうか。恋愛に絡めて話が展開されることは容易に想像がつくとは思いますが、切なさ全開、恋愛100%なんてことはなく、むしろ扱いはアッサリ目。その雰囲気がとっても心地良いです。また花吐き病を研究する種堂教授をメインに据えているのですが、彼は恋をしたことがなく、いわば花吐き病とは対極の位置にいる人物。この対比が、今後どのように効いてくるか楽しみ。
 
 特殊な病という設定のみでファンタジーといっているわけではなく、他にもファンタジックな要素が。まぁ結局は花吐き病にかかってくるんですが、この病の元となる妖精のような存在が、最初からずっと描かれ続けます。妖精の姿は見えず、病に罹った者だけに声が聞こえるようになります。最終的には、先の教授と、この妖精を絡めてまとめに持っていくと思うのですが、果たしてどうなることやら。精神的な部分によって発現し、妖精の存在があるとうことで、浅野いにおの「素晴らしい世界」に若干イメージが被りました。とはいえ話の内容自体は全く別ですので、よろしくお願いします。他にも嬉しいと花が咲くという、群青さんの「橙星」なんて作品もありましたが、そんなファンシーなもんじゃありません。


【オトコ向け度:☆☆☆  】
→お話自体は女性が好きそうな内容。とはいえ少女マンガ的な甘さはなく、良い意味でサッパリしているので、男性にも読みやすいんじゃないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→設定もさることながら、日常を描いたコメディに落とし込んでいるところはさすが。今後の展開も気になりますし、これはなかなか面白いんじゃないでしょうか。


作品DATA
■著者:松田奈緒子
■出版社:講談社
■レーベル:ワイドKC Kiss
■掲載誌:Kiss(2008年No.16~連載中)
■既刊1巻
■価格:819円+税

■購入する→Amazonbk1


カテゴリ「Kiss」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。