
ヴァンパイアは
たった1人
心に定めた女を抱いて
命を終える生き物なのですよ
■2巻発売しました。かなり入り組んだ設定なので、2段に分けてあらすじ紹介します。
1908年、ウィーン。若き天才テノール歌手・ディミトリは、事故に遭いながらも奇跡的に一命をとりとめた。だがそれ以来、自分の体に異変を感じ始め、時を同じくして、彼の周りで公演関係者の集団自殺が発生する。さらに彼の前に、マクシミリアンと名乗る男が現れ、「貴方はヴァンパイアになった」と告げられる。あまりに突拍子もない展開に、聞く耳を持とうとしないディミトリ。しかし段々と自分に起きた異変に自覚を持ち始め、やがて得た力で、長年想い続けていた友人の婚約者・アニエスカを手に入れようとする。しかし寸でのところでアニエスカは自ら命を断ってしまう。それでも彼女を失いたくなかったディミトリは、マクシミリアンに助けを求め、魂は失われたものの、肉体だけは残るように施してもらう…
100年後、2008年の東京。高校の国語教師・菊川梓は、教え子の光哉との関係について思い悩んでいた。積極的にアプローチしてくる光哉に、ダメだとは分かっていながらも、惹かれていく。しかし最後には「思春期特有のきまぐれ」と、この気持ちに踏ん切りをつけようと、別れを告げる。しかしそれでも食い下がる光哉。そんな会話を続ける二人の下に、大型ダンプが突っ込み、気づけば梓はベッドの上に。そして、ベッドの傍らには、ディミトリが。ディミトリは、「貴女は助かったが、光哉は死んだ。彼を助けて欲しいのならば、貴女の命をあずけて欲しい」と告げる。それを聞いた梓は、迷う事無く承諾。彼女の命はディミトリに預けられ、やがて魂の抜けたアニエスカの肉体に放たれる…
えーと、ちゃんと説明できてるか自信無いのですが、そんなお話です。1巻まるまるプロローグだと思っていただければ良いのですが。さて、では物語の解説を。
1908年のウィーンでヴァンパイアとなったディミトリは、得た力で長年想い続けた貴族のアニエスカを手に入れようとするのですが、彼女はそれを拒否し、自ら命を断ってしまいます。結果彼女の肉体のみが彼の手元に残り、やがてその抜け殻と共にウィーンを離れ、日本に。そして舞台は100年後の東京に移っていきます。そこで梓が、アニエスカの肉体に放たれる人物として見出され、物語は動き出します。アニエスカの体に、梓の魂。ディミトリはアニエスカを愛し、梓は光哉を愛する。身分の違いという壁に阻まれた、二つの悲しき想いが、時代を越え、交錯していきます。

事故自体は偶然?それとも…
この作品のテーマは「愛と繁殖」。2巻でようやくその本題の意味が見えてきます。ヴァンパイアの使命は、優秀な子孫を後世に残すこと。繁殖を終えたヴァンパイアは、そのまま死んでいき、またヴァンパイアの力によって身体の時間を止められたアニエスカも、繁殖が終えれば同じように死んでいきます。じゃあディミトリとアニエスカ(中身は梓)が結ばれて終わり?なんて考えるかもしれませんが、ディミトリはアニエスカに対し罪の意識を持っており、その役目を、アニエスカの最期を見届けるという所に見出していきます。そんな彼が取った方法は、アニエスカ(梓)に、複数のヴァンパイアの中から1人相手を選んでもらい、繁殖を行ってもらうというもの。ひとつ屋根の下で、ディミトリを含めたヴァンパイア4人と共同生活を送っていきます。それ故物語は、ハーレムものの様相に。でも設定が設定だけに全然甘くないんですよね。
アリスというのは、新しく生まれ変わった梓(アニエスカ)の名前です。またヴァンパイアというと、レーベルがレーベルだけに、異様にキザだったりってイメージを持たれるかもしれませんが、これが普通の兄ちゃん達で、ヴァンパイアっぽさを感じさせるのはディミトリぐらい。それはこの話で、ヴァンパイアという生き物が植物と定義されている(故に吸血鬼ではなく吸血樹と書く)事と何か関係があるのでしょうか。斬新ですごく面白いと思うのですが、使い魔が昆虫という設定も同時にあり、若干グロいですので、苦手な方はご注意を。
【オトコ向け度:☆☆☆☆ 】
→水城せとなってやっぱ凄いなぁ、と。設定・展開共に男性もグイグイ引き込むはず。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→水城先生の作品は、「失恋ショコラティエ」と「放課後保健室」を紹介し、どちらもオススメにしたのですが、これも非常に良い出来となっております。物語に引き込む力が凄い。とにかく読んでみてくださいよ、と。今月の作品の中ではマストバイタイトルの一つ。
作品DATA
■著者:水城せとな
■出版社:秋田書店
■レーベル:プリンセスコミックス
■掲載誌:プリンセス(2008年4月号~連載中)
■既刊2巻
■価格:各400円+税
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