
私は香水瓶だ
遠い昔には名前があったが
今はもう記憶から失われてしまった
■骨董屋の片隅に置かれた香水瓶。生まれてから数百年。次々と持ち主は変わり、自分の名前も忘れてしまった。その長い間、香水瓶が見続けてきたのは、人の愛と悲しみの物語。そしてこれからもまたこの香水瓶は、主を変えながら、人の愛を見続けてゆくのだろう。
香水瓶視点で送る、人間の愛と悲しみの物語です。香水瓶視点?なんて思われるかもしれませんが、要は「吾輩は猫である」方式の人間物語です。骨董屋からスタートし、次々と持ち主を変え、その度に浮かび上がる人間模様を、ただただ見つめ続けていきます。その達観した語りぐさは、香水瓶といえどなかなか心に響くものがあり、読んでいて本当に切ない。持ち主が変わるという事は、それだけの別れがあるという事。持ち主との別れは、そのままその持ち主の環境・心情の変化を表します。その発露が大体、悲しみや切なさといった感情。

あ、このカットだと猫が言ってるみたいになっちゃう。言ってるのは香水瓶です。「客観」じゃなく「達観」なんですよ。それゆえこういった台詞も出てくる。
当然ベタな展開もあるのですが、説得力のある香水瓶の「語り」は、そういった展開さえも「物語」に昇華させてしまいます。表紙だと、昼ドラ的な重厚で重々しい雰囲気の話が展開されるのでは、と思う方もおられるかもしれませんが、そんなことはありません。どちらかというと庶民派で、コメディ要素も盛り込んであります。また香水瓶だけで繋ぐのではなく、スタート地点の骨董屋の主人(変わり者)と、その友人の探偵と助手を毎回話に絡ませてきます。そうすることである程度話に関連性を持たせることに成功。
最後は香水瓶が壊れて終わりなのかと思ってたのですが、骨董屋か探偵に引き取られて安寧…なんてラストを信じてみたくなりました。結構重たげな話が多いものの、最後には救いを見せる形なので、決して後味が悪くなる事はありません。ラストの話はスゴい設定&展開でしたが、今後ギリギリ日常のラインを保てるのであれば追いかけていきたいです。面白かったです。
てかこの香水瓶、男なんですね。裏表紙に「彼」と。その落ち着いた語りぐさは、性別すら超越しているように感じただけに、男だと知ったのはちょっと残念だったり。
【オトコ向け度:☆☆☆ 】
→ベタでもOKという方は。柴門ふみよか明るいですし、後味も良いですよ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→この設定はなかなか面白いし、それが作中で効いている。続きも読んでみたいと思いました。
作品DATA
■著者:長浜幸子
■出版社:集英社
■レーベル:オフィスユーコミックス
■掲載誌:officeYOU('09年3月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:457円+税
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