このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] 2009.06.19
07198817.jpg押切蓮介「ミスミソウ」(1)


この草は
厳しい冬を耐え抜いた後
雪を割るようにして小さな花が咲く
三角草はおまえみたいだ



■3巻発売、完結しました。
 廃校が決まっている田舎の中学・大津馬中に転校してきた春花。鬱屈した環境の中に彼女がもたらしたのは、静かな狂気。最後の卒業生となるクラスで春花を待っていたのは、クラスメイト達による陰惨なイジメだった。イジメは日ごとにエスカレートするも、担任は見て見ぬふり。卒業まであと2か月半。今を耐えて、耐えて、そうすればもうこんな目に遭わずにすむ…。その矢先、彼女を襲ったのは、まるで悪夢のような出来事だった…。

 押切蓮介が贈る、田舎の中学校を舞台にした悲痛の精神破壊ホラーです。ヒロインは、東京から田舎に越してきた3年生の春花。転校したその先で彼女を待っていたのは、壮絶なイジメ。閉鎖的な田舎の鬱屈した環境に、部外者である春花が投げ込まれることによって、徐々にその歪みが噴出します。一気にイジメはエスカレート。そしてその果てに辿り着いたのが、春花を殺そうという計画。明確な殺意はなくとも、それが複数固まれば、行動に繋がってしまいます。春花の家に灯油を撒き、放火。その火事によって、春花の両親は死亡、妹は意識不明の重体に。当の春花は奇跡的に家におらず、九死に一生を得る形になるものの、家族を失ったショックは計り知れません。そして彼女は、クラスメイトへの復讐をスタートさせます。


ミスミソウ
覚醒後の春花の美しさは尋常じゃない。それと同時に、印象的なのが雪。この作品では、春花:クラスメイトの悪意=ミスミソウ:降りしきる雪という対比になっており、雪の中に佇む春花が本当に映えます。その白さから、綺麗なものをさらに美しく見せる要素として描かれることの多い雪を、対比で女性の魅力を描き出す要素として使ったのはスゴい。


 物語後半は『バトルロワイアル』のような様相を呈してきます。放火事件によってクラスメイトたちは歯止めが利かなくなり、さらに春花を狙うように。また春花も、彼らからの攻撃を迎え撃ち、復讐を果たしていきます。そこにあるのは、狂気のみ。ひとつの綻びから、一気に精神崩壊していく人間たちが描かれています。積極的に攻撃に出ているので「村八分」とは違うか。でも鬱屈した空気は、田舎ならではって感じがします。『バトルロワイヤル』の名前を出しましたが、あちらが逃げ道のない強制的な力が働く中で物語が展開されたのに対して、こちらは逃げ道がある中での展開。しかしそれでも逃げ場のない(かのような)、命のやりとりが行われる。そこだけ取っても、こちらの作品の方が数段優れているんじゃないのかな、なんて思います。ってそもそも比較対象になるのかも怪しいですが…。
 
 3巻でも息をつかせぬ展開。勢いのまま行くのではなく、しっかりと話に変化をつけてくるあたりがスゴい。こんな展開、誰が予想したでしょうか。2巻で明確なフラグがあった相場くんはまだしも、小黒さんについて予想できた人はそうはいるまい。狂気の中に、しっかりと人間の心を覗かせた小黒さんが、非常に印象に残った3巻でした。
 
 各所で連載を持っている押切蓮介先生ですが、『ミスミソウ』は彼の最高傑作といっても過言ではないと思います。ってか私はそう思っています。3巻帯には・・・
 
今までギャグ漫画ばかり描いてきましたが、
一番理想の漫画が描けたのではないかと思っています。

 とのコメントが。やはり先生自身も今作の出来には満足していらっしゃるようですね。またあとがきに非常に興味深いコメントを発見しました・・・
 
普段自分が描いているテイストを崩しての話作りは困難を極め
 「普通」の人間を描く難しさを改めて痛感しました。

 普通を狙って描いていたのか…。狂気にまみれた登場人物たちを描きながらも、押切先生が真に描こうとしていたのは、「普通」の人間(もっと言うと、ミスミソウのような花を慈しむ気持ちを忘れないで欲しいという想いがあります)。そのことを踏まえ物語を振り返ると、また違った感想が生まれてくるから不思議。各人の中にある「普通」の部分こそが、この作品の核になっているのです。確かにそういった描写があるからこそ、狂気の部分が活きてくる。そうか、3巻で小黒さんが印象に残ったのは、そういう意図が明確にあったからなのか。ホラーだからと高をくくってはいけませんね。この作品を届けてくれた押切先生に心から拍手!


【オトコ向け度:☆☆☆☆☆】
→押切蓮介先生ですからね。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→絵が決して上手いわけではありませんし、話の雰囲気も非常に重たいです。しかしそれでも物語に引き込む力がスゴい。一度読めば、もう心を掴んで離さないです。全力でオススメ。


作品DATA
■著者:押切蓮介
■出版社:ぶんか社
■レーベル:ぶんか社コミックスホラーMシリーズ
■掲載誌:ホラーM(2007年6月号~2009年6月号)
■全3巻

■購入する→Amazonbk1

カテゴリその他のレーベルコメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。