
どうして彼女を
いとしいと思うことが
こんなにも
みにくいのだろう
■若き天才画家・真部明春が心奪われたのは、同じマンションに住む女子高生・一条生花。その美しく白い肌が頭から離れず、創作活動も手につかない。そんな明春を見兼ねた親友の高志が、生花にモデルになってもらうことを打診、OKをもらう。しかしその“対象”に触れなければイメージが膨らまない明春は、一向に筆を取ることができない。困惑する生花に対し、正直にその旨を伝えると、彼女から思わぬ返事が返ってきた「私に、触れてください」。彼女に触れたいという欲望と、彼女を汚してしまうのではないかという恐怖の間で揺れる明春であったが…!?
白磁の肌を持つ少女・生花に対し、画家として、人間として、男として様々な情念を思いめぐらし苦悩する青年・明春を描いた物語です。いや、視点は時に逆になるので、一概に明春目線とは言えないかも。話の流れは上のあらまし紹介の通りです。彼女の一言をきっかけに、触れる合うようになった二人。明春は、湧き上がってくる欲望と、彼女を汚すわけにはいかないという自制心の間で揺れ、その想いを全て、彼女ではなくカンバスにぶつけます。彼は早くからその才能を見出され、同時に成長することを止められてしまいました。どういうことかと言うと、彼の描く”世界“は少年のように純粋な世界で、その世界をずっと描き続けられるよう、俗世との関わりを一切シャットアウトして育てられたため。そのため「女性とは関わってはいけない」と刷り込まれてきました。そんな中に現れた、汚れなき少女・生花。彼女の出現によって、明春は様々な感情を覚えるようになっていきます。

こういうシーンがひとつ魅力なのですが、明るいやりとりもしっかり描いてきます。だからこそ際立つ。
自分が汚れていくことに絶望すると同時に、彼女を汚してしまうのではないかと恐怖するという2重構造。肌に触れるということで、結構エロティックな描写があるものの、セックスにまではいきません。あくまで彼女は汚したくないという意図が明春にはあるので。ただ逆に、セックスに持ち込めないからこそのエロさみたいなものがあるわけで、なんかねスゴいですよ。欲望と葛藤の淵が見えるというかなんというか…。ま、展開次第では以降溺れまくりってルートも考えられますが、レーベルを考えるとそれはないか。
捉え方次第だとは思うのですが、画家である青年の苦悩を描いた作品というよりは、そういった作品を装ったラブストーリーと考えるのが正解なのかもしれません。芸術性や文学性の高さは窺えるものの、結局は二人の行く末を描きたいのよ、っていう作者さんの意図が感じられる気がします。そうなると落としどころは自ずと見えてきてしまうのですが、果たしてどうなのでしょう…。それでもこの雰囲気を、白泉社の少女漫画でやってくるってのはスゴい。「ラブシック」(→レビュー)もなかなか面白かったですが、個人的にはこちらの方が好き。インパクトという意味では今年の新作では10本の指に入るかも。ラストの描き方も秀逸、これは続きが気になるよね。安易な方向に流れないことだけを祈ります。
紀伊國屋書店新宿本店別館Forestで購入すると、サイン会参加への整理券がもらえたそうな…くそう、知っていれば迷わず買いに行ったのに!!
■作者他作品レビュー
*新作レビュー* モリエサトシ「ラブ シック」
【オトコ向け度:☆☆☆☆ 】
→このぐらいの作りであれば、男性も満足できるんじゃないでしょうか?
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→白泉社の新作では今年の上半期で一番印象に残ったかな。是非チェックしてもらいたい作品。良い意味で白泉社っぽくないラブストーリーに仕上がっています。
作品DATA
■著者:モリエサトシ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:花とゆめ(平成20年12号ふろく),ザ花とゆめ(2/1号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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